メールマガジン「嶋聡からの手紙」

AIは「人類を支配しない」という説と共創の道  2025.6.30

  今年も折り返しの時期を迎えました。6月最後の週、私は月曜日に大阪で講演を行い、週の半ばには韓国財閥企業およびプライム市場上場企業の取締役会に出席。さらに株主総会を経て、金曜日には仙台で講演を行いました。取締役会の場で「明日は仙台で講演です」と申し上げたところ、同席していた、ビジネスの最前線で活躍されている女性取締役から「すごい体力ですね」と感心されたほどです(笑)。
さて、講演のテーマは「AI革命の加速と企業経営」。最近では「AI革命があまりに加速しすぎて、大丈夫なのか?」という質問を多く受けるようになってきました。今回の手紙では、その問いに応える形で、次の三点についてお話ししたいと思います。

オックスフォード大学やケンブリッジ大学が公表した「人類を滅ぼす可能性がある13のリスク」の中に、AIが含まれているという事実があること。しかし、同時にAIこそが、残る12のリスクを乗り越える唯一の可能性を秘めていること。さらに、アップルなどの研究によって「AIが世界を支配する」という未来像は、少なくとも今後5〜10年のスパンでは現実化しないという予測が示されていること。以上、三点です。

■ 人類を滅ぼしかねない13のリスク
2010年代後半、ケンブリッジ大学の「存在的リスク研究センター(CSER)」とオックスフォード大学の「未来の人類研究所(Future of Humanity Institute)」は、科学的根拠に基づき、人類の存続を脅かす13の存在的リスクを発表しました。以下にその主な項目を挙げます。

核戦争:地球規模の寒冷化(いわゆる「核の冬」)や文明崩壊の可能性。
人工知能(AI)の暴走:制御不能な敵対的超知能が出現するリスク。
パンデミック(自然発生型):新興ウイルスによる大量死。
バイオテロ・合成生物学:人工ウイルスや細菌兵器の漏洩・テロ。
気候変動の暴走:制御不能なフィードバックループによる生態系と文明の崩壊。
超火山の噴火:日照不足から世界的な飢饉へ。
天体衝突:隕石・小惑星による地球規模の被害(恐竜絶滅レベル)。
ナノテクノロジーの誤用:自己複製型ナノマシンの暴走(グレイグー・シナリオ)。
AIによる社会秩序の崩壊:失業や格差による民主主義の動揺。
地球外からの敵対的知性(理論上のリスク):異星文明による介入。
自然法則の変化:真空崩壊、物理定数の変動など。
技術的特異点(シンギュラリティ):技術進化の加速が人類の進化と乖離し、社会的破綻に至る。
人類の道徳的退廃と意思決定の崩壊:偽情報、政治的分断、感情操作などによる集団知性の劣化。

この中でAIは、「制御可能な技術」であるという点で、他のリスクと一線を画します。

■ AIは「世界を支配しない」:アップルの研究「思考の幻想」より
OpenAIのサム・アルトマン氏、Anthropicのダリオ・アモデイ氏、DeepMindのデミス・ハサビス氏らは、AIが雇用や制度に大きな変化をもたらし、新たな社会契約が必要だと主張しています。
一方、アップルの研究論文「思考の幻想」は、大規模言語モデル(LLM)の「推論能力」には根本的な限界があると指摘しています。AIは人間のように段階的に思考するわけではなく、学習データから尤もらしい文章を生成しているにすぎません。

私は「AIが当面、世界を支配することはない」と考えています。その根拠を5点に整理します。
推論能力の限界  AIの“思考”は幻想であり、実態はパターン認識の集積体にすぎません。
性能向上の停滞とハルシネーション問題 モデルの巨大化にもかかわらず、精度や知性の向上には限界が見られます。
現実業務との乖離 実務では高度な判断やプロセスには依然として人間の関与が必要です。
常識・指導に従えない本質的制  AIは「教えられて修正する」能力を欠いています。
過信と依存のリスク 「人間より賢い」と誤信すること自体が、新たなリスクになっています。

現在のAIは、特化型(narrow)では優れているものの、汎用型(general)にはほど遠い存在です。したがって、「AIが世界を支配する」未来は、少なくとも今後5〜10年の間には訪れないと結論づけられます。

■ AIは他のリスクを克服する鍵となるか
とはいえ、私はAIこそが、残る12のリスクを克服するための唯一の「鍵」であるとも考えています。その理由は以下の5点に整理できます。
複雑系の解析と予測  パンデミックや気候変動など、複雑系の予測にAIは不可欠です。
早期警戒とリアルタイム分析 SNSやセンサーから異常兆候を即時検知し、災害やテロを未然に防ぐ可能性。
合理的な意思決定支援 AIは感情を排し、戦争回避や経済封鎖の判断を補佐する冷静なパートナーとなりえます。
制御可能なリスクであるという点
 AIは設計・再設計が可能な「人類が制御できるリスク」です。
社会制度の再設計力
 教育、医療、雇用、政治制度を進化させ、持続可能な文明を構築できる可能性を秘めています。
プロメテウスが火をもたらしたとき、神々はそれを恐れました。火は人を焼きもすれば、命を温めもする。AIも同様です。ナイフと同じく、使い方次第で最も危険な道具が最も有用な道具になります。

■ 孫正義氏のAI観
孫正義氏はAIについて次のように語っています。
「AIは人類最大の発明」
 > 「AIは蒸気機関、電気、インターネットを超える技術だ」(2017年)
「AIは人間のパートナー」
 > 「能力を奪うのではなく、共に進化する存在」(2018年)
「AIは地球規模の課題の解決手段」
 > 「気候変動、教育、医療などに対応するのはAIしかない」(2019年)
孫氏の語るAI像は、「人間の進化の共創者」であり、「知性の仲間」としてのパートナーです。私もこの哲学に深く共鳴しています。

■ AI革命と日本の未来
AI革命が加速する今こそ、企業も日本国家もこのパラダイムシフトを正しく理解し、活用していくべきです。企業にとっては、飛躍の経営戦略となり、国家にとっては、再び「成長戦略」を描き直す起点になると私は信じています。

●ビジネスリーダーへの手紙
プロフェッショナル・マネージャーへの7つの習慣
あなたが経営のプロフェッショナルを志していると聞き、とても頼もしく思いました。
ただし、プロフェッショナル・マネージャーの道は「カリスマ」で切り開くものではなく、「習慣」で切り開くものです。
今日は、私自身の経験と学び、そしてピーター・ドラッカーが多くの経営者に観察した共通点をもとに、成果を上げるための「7つの習慣」をお伝えします。

習慣1|「何をすべきか」と自問する習慣
「君がやりたいことではなく、組織が君に求めていることは何か」
・・・ピーター・ドラッカー
アメリカ大統領ハリー・トルーマンは、カリスマ性に欠けると批判されながらも、就任直後に「自分のやりたいこと」ではなく「国が今、求めていること」を最優先に考え、外交政策に集中しました。その結果、マーシャル・プランを実現し、戦後の世界秩序に大きな影響を与えました。
君もまず、「やりたいこと」ではなく、「なすべきこと」を自らに問うてほしい。それがリーダーシップの第一歩です。

習慣2|「正しいこと」を基準に意思決定する習慣
「正しいことは、必ずしも人気があるとは限らない。だが、正しいことをする人が信頼される」
・・・イーロン・マスク(Tesla CEO)
短期的な人気や損得ではなく、「正しさ」に基づいた意思決定をすること。
たとえばGEのジャック・ウェルチは、CEO就任時に自らが望んでいた海外展開よりも、業界で1位または2位になれない事業の整理という困難な決断を下しました。それが、GE再建の出発点でした。
「これは我が社にとって正しいか?」という問いが、誤った熱意や周囲の圧力から君を守ってくれます。
稲盛和夫さんもまた、「動機善なりや、私心なかりしか」という問いを日々自分に投げかけながら経営に臨んでいたそうです。

習慣3|アクション・プランを立てる習慣
「計画は無意味だ。だが、計画を立てることは不可欠だ」
・・・ドワイト・D・アイゼンハワー(第34代米大統領)
ナポレオンも、「戦いは計画どおりに進まない。だが、計画がなければ勝てない」と語ったといいます。
現実は思いどおりにはいかない。それでも準備している者だけが柔軟に対応できるのです。
君のアクション・プランには、明確なゴール、期限、チェックポイントがあるだろうか?PDCAの「P(Plan)」は、プロのマネージャーにとって最も信頼すべき武器です。

習慣4|意思決定に責任を持つ習慣
「責任を取るのがリーダーの第一の仕事である」
・・・セオドア・ルーズベルト(米大統領)
大手製薬会社ファイザーでは、人事判断の結果を半年後にレビューする制度があります。失敗を恐れるのではなく、それを次の意思決定の材料とするためです。部下の失敗は、任命した者の責任。そう考える君は、自然と周囲から信頼されるようになります。
松下幸之助もこう語っています。「成功は部下の努力のおかげ。失敗は経営者の判断ミスによる結果」。
往々にして、この逆の態度を取ってしまいがちですが、常に自省を忘れないでいたいものです。

習慣5|コミュニケーションに責任を持つ習慣
「すべての失敗は、コミュニケーションの不足に始まる」
・・・ピーター・ドラッカー
ゼネラル・モーターズのアルフレッド・スローンは、会議のたびに自ら要約メモを作成し、出席者全員に配布しました。
それが伝達の精度を高め、意思統一と実行力を生んだのです。
君も、上司や部下との間で「伝えたつもり」をなくし、説明し、確認し合うことを習慣にしてほしいと思います。

習慣6|問題よりチャンスに焦点を当てる習慣
「問題は過去。チャンスは未来をつくる」
・・・稲盛和夫(京セラ創業者)

P&Gでは、「最大の成長機会に、最高の人材をつけよ」というルールがあります。トヨタも2000年代、海外展開というチャンスに対して、社内の優秀人材を集中投入しました。問題は片づけるものであり、チャンスは掴みに行くものです。君のエース人材を、問題処理に浪費してはいけません。
孫正義氏も、「問題のある部署にエースを投入するのは愚の骨頂だ」と喝破しています。

習慣7|会議を生産的に運営する習慣
「会議は、1時間で価値を生み出さなければ、全員の1時間を無駄にする」
・・・ジェフ・ベゾス(Amazon創業者)

Amazonでは「PowerPoint禁止」「6ページの事前読解メモ」が導入されています。それは、会議が「話す場」ではなく「決める場」であるからです。会議には目的と形式を明確に設定し、終了後には必ずフォローを行うこと。
「耳を傾け、まとめ、行動を指示する」・・・このプロセスを徹底できれば、会議は君にとって最強の武器となるはずです。

◆プロフェッショナル・マネージャーの黄金律
「まず耳を傾けよ。口を開くのは最後である」
・・・ピーター・ドラッカー
リーダーとは、先に話す者ではなく、最後に話す者です。沈黙は、リーダーの知性と威厳を際立たせるものです。
この「7つの習慣」を意識して積み重ねていけば、どんなに困難な環境にあっても、君は必ずや組織に成果をもたらすプロフェッショナルマネージャーになれるでしょう。
君の強さは、声の大きさや肩書きではなく、「習慣の静かな力」に宿っているのです。それを信じて、日々の実践を続けてください。

嶋聡note 「読む講演シリーズ」「娘との対話シリーズ」、「娘への手紙シリーズ」

→ https://note.com/satohi_shima

石破・トランプ会談 – 石破総理は「柵越え」を狙え!  2025.6.16

   石破茂首相が6月15日夜、カナダ西部カナナスキスで開かれるG7サミットに出席するため、政府専用機で羽田空港を出発しました。現地ではトランプ米大統領との首脳会談も予定されており、米国による関税措置の見直しを直接求め、協議の進展を狙うとされています。

これまでの赤沢大臣の交渉を振り返ると、日本の通商交渉は「関税引き下げをお願いする」という姿勢に偏りがちでした。しかし、今回の交渉相手はドナルド・トランプ氏です。彼は単なる政策家ではなく、「勝利の物語」を演出する劇場型の政治家です。トランプ氏が最も求めているのは、「自らが主導して世界を動かした」というストーリーを描くことにあります。

このような相手に対して、日本が取るべき姿勢は「お願い」ではなく、「共演者として舞台に立つこと」です。関税交渉はその舞台の“第3幕”であり、核心ではありません。

〇 大谷翔平に学ぶ「柵越え」の交渉術
ここで私が強調したいのは、大谷翔平選手の存在です。今、アメリカ人が日本に対して好意的な感情を持っている最大の理由の一つは、ドジャースで活躍する大谷選手の存在にあります。
米国人の83%が日本に好意的であるというデータがあります。これは従来の政治的な同盟を超え、文化・経済・感情面での信頼関係が日米間に育っている証拠です。これを外交の“ホームランチャンス”に転化しない手はありません。

石破首相が目指すべきは、この「大谷的構図」の応用です。単に関税を下げてくださいと頭を下げるのではなく、「米日がタッグを組めば世界を制する」という“柵越えの筋書き”をトランプ氏に提示することです。

〇 「日本との交渉はトランプの大チャンス」― WSJの記事より
私は毎朝、アーリーモーニングティーを飲みながら、英『フィナンシャル・タイムズ』と米『ウォール・ストリート・ジャーナル』を読むのが日課です。
6月12日の『ウォール・ストリート・ジャーナル』に「日本にあるトランプ氏の大チャンス - 通商・技術面の連携強化は米に恩恵を与え、中国を抑止する」という記事が掲載されました。執筆したのは、元米下院議員で国防技術の専門家でもあるマイク・ギャラガー氏です。
「トランプ政権はリヤドでAIを軸とした巨額の成果を上げた。次は東京で、それ以上の成果を挙げるときだ」

日米同盟は今や軍事同盟から“戦略経済同盟”へと進化すべきです。日本は製造業、AI、半導体、材料技術において世界の最前線に立っています。米国は日本の軍事的貢献(在日米軍・ミサイル防衛・造船協力など)に深い信頼を寄せています。
ギャラガー氏は「日本は米国の宝を受け入れている。大谷翔平選手のように」と喩えながら、この信頼関係を経済分野にも拡張すべきだと訴えています。
「セクターごとの赤字に固執するな。大谷のように柵越えを狙え」
つまり、関税という“守りの議題”から、AI・エネルギー・デジタル技術という“攻めの同盟”へと、交渉のフレームを転換すべきだという提案です。
ギャラガー氏は中東リヤドでのAI投資を「勝利の物語」と描き、それをトランプ氏の復活の象徴としています。そして「次は東京」と明言していることから、**「次の起死回生の舞台は日本との交渉そのものである」**という流れが明確です。

もはやトランプ氏が望むのは、旧来的なFTA(自由貿易協定)ではありません。彼は外交劇の主役として、東京との交渉ででその続編を演じようとしているのです。このときに必要なのは“関税合意”といった細部ではなく、「経済安全保障共同体の創設」という大テーマです。

たとえば、日本を米国の投資規制から除外する「ホワイトリスト」入りの実現に向けて、無人艇・造船・エネルギー・AI・LNGなどの包括的な技術協定や、「中国の経済侵略から日米を守る新たな経済同盟」の創設を日本側から提案すべきです。
そうした構想が提示できれば、トランプ氏は「日本との共闘により、中国の経済的包囲網を突破した」と誇らしげに宣言できるでしょう。結果として、日本のホワイトリスト入りも現実味を帯びてくるのです。

〇 劇場型外交こそ、石破氏の“柵越え”
ここで明確にしておきたいのは、「劇場型外交=パフォーマンス重視」ではないという点です。政治における“劇場”とは、国民と世界に「共感と物語」を提示する舞台なのです。

松下幸之助氏は言いました。「経営とは演劇である」。舞台に立ち、観客に向き合い、共感を得なければ、どれほど正しい政策も支持されません。石破首相には誠実実直な姿勢があります。しかし今はそれを超えて、「物語」を提示すべきです。日米同盟が経済と安全保障の両面で「世界の民主陣営を導くパートナーシップ」へ進化するという物語を。関税交渉を単なる「条件闘争」として捉えてはいけません。今回のサミットで石破首相が示すべきは、「日米が共に世界秩序を創る時代が来た」というビジョンです。
このビジョンが共有されれば、関税はむしろ副次的な問題となります。“柵越え”とは、目先の利害ではなく、大きな構図を描くこと。そして、その構図の中で相手を主演として迎えることなのです。

ドナルド・トランプという“観客と舞台を同時に欲する男”に対し、石破首相がどのようにこの劇場を演出できるのか・・・今、日本外交の新たな幕が上がろうとしています。

〇 赤沢大臣の交渉は「周最型(=秀才型)」であった
トランプ政権下での自動車関税交渉は、もはや単なる通商論争ではありません。これは、米国内の「雇用回帰」ナショナリズムと、日本の産業主権が真正面から衝突する、国家戦略レベルの戦いです。

赤沢亮正経済再生担当大臣はこの戦場において、6回にわたる訪米、約115分に及ぶ米閣僚との個別会談を重ねてきました。しかし、関税撤廃の「要求は明言せず」、さらに「予断は持たない」との姿勢で臨んでいます。この姿勢は、冷静さと誠実さに満ちています。日本の営業マンが「何度も足を運べば誠意が伝わる」と信じて行動するように、短期間に6度もワシントンを訪れているように見えます。

しかし果たして、このような交渉スタイルで“トランプ劇場”の舞台を動かすことが可能なのでしょうか?私も、かつてソフトバンクによる米国第3位の携帯電話会社スプリントの買収に際して、外国企業による戦略産業買収を監視するCFIUS(対米外国投資委員会)との交渉を担当しました。当時は毎月のようにワシントンに通いました。
その経験から言えば、赤沢大臣の誠実・実直型の交渉スタイルは、日本の官僚型の交渉相手には効果的かもしれません。しかし、アメリカ政治そのものを体現するような存在であるトランプ氏には、通じにくいと考えざるを得ません。トランプ氏が重視するのは「物語」と「見出し」です。劇場型の演出がなければ、赤沢大臣の交渉や日本の主張は霞んでしまうでしょう。

赤沢大臣は、衆議院議員になる前は国土交通省官房のエリート官僚でした。当時、私は現職の衆議院議員として、彼と面識があったと記憶しています。当時の印象どおりならば、トランプ氏との交渉にはあまり向いていないのではないか、というのが私の率直な印象です。

〇 赤沢大臣は『史記』の「周最」ではないか?
赤沢大臣に関税交渉という国難とも言える任務を委ねて本当に乗り切れるのか。この問いに対するヒントは、2000年以上前の中国古典『史記』に見いだすことができます。この2か月間、赤沢経済再生担当大臣はトランプ政権との関税交渉に臨んできました。とりわけ、自動車関税をめぐる交渉は、日本企業にとって年間1.7兆円の損失につながる重大なテーマです。
私がこの交渉経過を見て思い出すのは、『史記』に登場する「周最」という人物です。彼は誠実だが舞台には立てない・・・そんな男として描かれています。
周最は、『史記』「平原君列伝」に登場します。戦国時代、強大化する秦の脅威に直面した趙の名臣・平原君が、連衡(同盟)を結ぶため楚へ使者を送ろうとしたとき、志願したのが清廉で誠実な周最でした。
しかし平原君は、彼の志願を次のように退けます。「子之為人,廉直而無威重,不可以使於諸侯」・・・君は清廉で正直だが、威厳と迫力を欠いており、諸侯への外交には不向きである。
この一文には、「外交において適材を選び送ることこそが大戦略であり、そこには威厳と迫力が不可欠である」という、史記の核心的メッセージが込められています。

〇 赤沢大臣の交渉スタイルと「周最=秀才型」
現代に戻りましょう。赤沢大臣の交渉スタイルは、極めて誠実で実務的です。
彼の発言を追うと、「精力的に調整を進めている」「真摯なやりとりを重ねている」と語りながらも、「要求したかどうかは明言を避け」「予断は持たない」と述べています。
これはまさに「周最」と同じです。正しさはあっても、舞台設計がない。いわば“学校秀才型”の交渉です。

一方、相手はトランプ氏です。彼は「米国に自動車労働者を取り戻す」「関税を上げれば国内に工場が戻る」と、交渉そのものを**「物語」として構成**しています。それに対して、赤沢氏は「論理」と「誠実さ」で応じている。この構図は、交渉の主導権を最初から相手に明け渡しているようなものです。

〇毛遂に学ぶ──物語を語る交渉者
『史記』には、周最のあとに登場する**毛遂(もうすい)**という人物も描かれています。彼は、無名の食客ながら、自らを推して楚への使者に加えてほしいと願い出ます。
そして楚王に対して、こう断言します。ここでは楚王をトランプ氏に重ねて考えるとよいでしょう。「楚若不與趙合,將為秦所滅」・・・今ここで趙と手を結ばなければ、楚もいずれ秦に滅ぼされよう。この一言で楚王の心を動かし、合従策が成立します。

つまり、交渉相手が動くかどうかは、「構図を提示すること」「物語を語ること」にかかっているのです。現代の外交も、もはや合意文書や数字だけで動く時代ではありません。トランプ氏に対しては、「このままでは世界の覇権はアメリカから中国へと移ってしまう」と、明確に伝えることが必要でしょう。

〇人生は芝居
「人生は、自分で演出もし、演技もする、生きた芝居のようなものである。腕次第、やり方次第で、いくらでも良い芝居になりうる」・・・これは松下幸之助氏の言葉です。私が参謀として補佐した孫正義氏は、まさにこの言葉を体現した人物であると言えます。

トランプ関税という国難ともいえる交渉に、総理としてG7の舞台で臨むことは、石破総理にとってまさに男子の本懐でありましょう。
若き日に石破氏が団長を務めたオーストラリア青年議員交流団の一員として、オーストラリアを訪れ、日本の将来の在り方を語り合った石破総理とトランプ大統領との会談に、大いに注目したいと思います。                          




現代の竜馬、孫正義の日米ファンド構想  2025.6.2

   歴史を動かすような大きな転換点は、派手な報道よりも、静かに語られた「構想」から始まることが多いものです。英フィナンシャル・タイムズ(FT)が5月27日に報じた、ソフトバンクグループの孫正義会長が米国財務省のベッセント長官との協議の中で提案したとされる「日米共同の政府系ファンド(SWF)」構想がそれです。
初期資本が3000億ドル(約42兆8000億円)規模になる必要があるとされ、日米関税交渉が進むなか、ファンドの枠組みは他の国にとっても米国との投資関係のひな型となる可能性があると言われています。ファンドの初期資本3000億ドルは、日本の年間防衛予算の約5.4倍に相当します。つまり、国家防衛の5年分を一気に投じる規模になるのです。
今回はこの構想に注目してみたいと思います。今は、日経や読売は取りげましたが、注目度はそれほど高くないです。ですがいずれ注目される存在になると予想するので、先取りして皆さんにお伝えしたいと思います。

孫正義氏が坂本龍馬ファンなのは良く知られています。坂本龍馬は薩長連合を武器とコメの交換、利で成し遂げましたが、孫正義氏は、日米を国家間ファンドで結び付けようとしています。まさに、21世紀の「坂本龍馬」は本物の坂本龍馬より、スケールが大きいようです。

〇そもそも「孫正義のファンド構想」とは?
まず最初に、今回話題になっている「孫正義氏のファンド構想」とは何か、やさしく整理してみましょう。

今、孫正義氏が提案しているのは、「日米両政府が一緒につくる投資ファンド」です。政府系ファンド-英語ではSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド)といいます。中東の産油国などがよく使っている国家の資産運用の仕組みですが、それを日米が手を組んでつくろうというのです。

このファンドは、米国内のAIや次世代インフラに投資する予定です。たとえば、今ソフトバンクが進めている大規模なAIデータセンター構想「Stargate」なども、ファンドの投資先の候補です。
しかもこのファンドは、日米両国の財務省が共同で運営し、民間の投資家や、さらには一般市民が少額で出資できる可能性もあるという“開かれた国家投資ファンド”になる構想です。

こう聞くと、「なんだか壮大すぎてピンとこない」という方もいるかもしれません。けれど、孫氏のねらいはじつに現実的でシンプル。**「政治が揺れても、日米がずっと利益を共有できる仕組みをつくる」**ということなのです。

〇理想より利で動かす-まさに現実主義外交の体現
この孫氏の構想、実は20世紀の国際政治学者ハンス・モーゲンソーが唱えた「現実主義(リアリズム)外交」のど真ん中を行くものです。
モーゲンソーは言いました。「国家は理念で動くのではない。国益=利によって動くのだ」と。つまり、道徳や理念ではなく、“何が得か、何が損か”を基準に外交や国際関係を読み解くべきだ、というのが彼の立場です。

今回のファンド構想もそうです。
●アメリカにとっては「税金を上げずに収入を増やす」手段になる。
●日本にとっては「政権が変わっても変わらない制度」でアメリカとの経済的関係を安定化できる。
政治理念ではなく「利」で両国を結びつける-これこそ、リアリズム外交の原則そのものです。

〇坂本龍馬の「薩長同盟」も、理想ではなく“利”で結んだ
この構図に、筆者はある歴史的人物を重ねたくなります。幕末の坂本龍馬です。
龍馬は、敵対していた薩摩藩と長州藩に「理念ではなく利」を説きました。
薩摩が英商人から武器を買い、それを長州に渡す。長州はその代金として米を薩摩に提供する。
つまり、戦争に必要な物資を“相互利益”で融通し合う経済取引を通じて、政治的な同盟を成立させたのです。

理想を語るのではなく、「これならお互い得する」と示して動かす。龍馬も、現実主義の外交実践者でした。

〇孫正義は現代の龍馬か、それ以上か?
孫氏がやろうとしているのは、まさに現代の薩長同盟です。ただし、相手は“藩”ではなく“国家”。取引されるのは“武器”ではなく“AI”。仲介するのは刀ではなく、ファンド。つまり、スケールの大きさにおいて、孫正義は坂本龍馬を超える存在になる可能性があるのです。

そして何より両者に共通するのは、「メンツ」でも「正義」でもなく、「利」を動かすことで歴史を変える、という冷静かつ大胆な現実主義の精神です。

〇経営への示唆:利を大きく考えよう
この構想が教えてくれるのは、グローバル経営においても「理念」より「利」、つまり共通の利益構造をどうつくるかが、いかに大事かということです。
AI、インフラ、サプライチェーン、気候投資・・・こうしたテーマで企業が国を超えて連携するとき、理念の一致を待つのではなく、「一緒に得する仕組みを設計する」ことが鍵になります。

孫正義氏が見せたのは、まさにその設計図なのです。理念は語られて美しいが、利は動かして強い。それを理論で説いたのがモーゲンソー、実地で試みたのが龍馬、そして今、世界スケールで実装しようとしているのが孫正義なのかもしれません。
坂本龍馬の影響は明治維新という「政治体制の転換」にあった。
その規模は、江戸幕府という権力を倒し、新たな国家を生むという点で、まさに革命的でした。
一方、孫正義氏が今回構想するファンドは、国家を超えて「インフラ」「資本」「テクノロジー」を結び、21世紀型の経済圏と文明基盤を構築しようとする試みです。つまり、これは「政府を変える」のではなく、「経済文明のOSを変える」ことを目指しているのです。

〇現代の龍馬は、本物の龍馬を超えるかもしれない
両者は奇しくも「メンツを越えて利で結ぶ」「越境的に構想する」「技術に賭ける」という3つの点で一致しており、その実行力においても他の追随を許しません。だが、その規模と制度設計の深さにおいて、孫正義氏の構想は龍馬をも超える可能性があります。一時期、「孫正義の参謀」とも呼ばれた私としては、大いに期待するものです。

坂本龍馬が日本という国を近代化へと導く触媒だったとすれば、孫正義氏は世界を次のAI文明へと橋渡しする存在かもしれません。

このSWF構想が実現すれば、それは「官と民の境界線を再定義する」試みとなります。国家の資本が民間の戦略に流れ込み、民間のアントレプレナーが国家の長期戦略を担う。このようなモデルは、冷戦後に欧米が主導してきた「規制緩和+民営化」路線とは異なる、新しい公共性の形を示唆しています。

そして、それを最初に描き出したのが日本人である、という点は我々にとって誇りです。また孫正義氏を参謀として支えた経験のある私にとっても誇りです。

〇政治家よ、スキャンダルでなく世界構想を語れ
最後に。これは、単なるひとつの投資ファンドの話ではありません。国家戦略、技術覇権、財政構造、政治的安定性・・・すべてを内包する、21世紀型の「地政学的資本主義」の幕開けの一手だと考えていただきたい。

日本の政治家は、この構想にどう関わるのでしょうか。外野で見守るのか、あるいは共にその構想を形づくる「パートナー」となるのか。いま問われているのは、その姿勢です。政治家はスキャンダルを追求するのが仕事ではありません。孫正義氏に負けないもっと大きな構想力で、日本を導いてほしいものと、我が後輩でもある、日本の政治家に期待申し上げます。

* 娘への手紙 参謀の条件(2)・・参謀の5つの型
きみが、CEOから「君のお父さんのように、一人で何でもできる参謀はそうはいない。だから何でもできる一人を探すのではなく、チームとして君のお父さんのような働きをする参謀組織をつくってほしい」と言われたと聞いた。それは、私にとって何よりの誉め言葉だ。

戦略とは「未来に橋をかける」ことだ。だが、ただの数字やスローガンでは、橋は架からない。CEOが見ようとしているのは、まだ誰も歩いたことのない道だ。その道を照らし、ときに共に迷い、進むべき方向を指し示す・・・それが「参謀」の役割なんだ。

きみに託されたのは、その「参謀たち」を組織すること。つまり、未来への羅針盤、コンパスをつくる作業だ。以下に、父なりの経験から、きみが選ぶべき5つの「参謀の型」を記しておこう。

一、右利きの参謀・・・構造と実行を司る者
数字に強く、構造化に長けた参謀を1人は持ちなさい。彼らは、CEOの語るビジョンを、ロードマップに翻訳する者だ。予算、工程表、リスク管理・・・現実を見つめ、組織を動かす力を持つ。
だが、彼らが描けるのは「地図」であって「地平線」ではない。その点を見誤ってはならない。このタイプは良い大学卒業生に結構いる。

二、左利きの参謀・・・創造と直観の触媒
創発的な発想をする人、つまり「まだ言語化されていないこと」を察知できる人物を必ず側に置きなさい。彼らは、過去の延長ではなく、断絶の先にある未来を構想できる人だ。
かつてポラロイドの創業者エドウィン・ランドが、3歳の娘の疑問から瞬時にカメラの未来を想像したように・・・偶然から必然を生む者、それがこのタイプだ。
これは、一種の天才であり、組織では理解されない。なぜなら、先見性があるとは定義上少数者だからだ。これも定義だが多数者=正常。少数者=異常。したがって、先見性ある人とは「異常者」=変な人である。CEOも昔は変な人を思われていたのです。

三、触媒型参謀・・・組織に問いを投げる人
彼らは自ら答えを出すのではなく、他者の中に思考の火花を起こす人だ。ときに挑発し、ときに対話を仕掛け、組織全体を動かす知的エネルギーの源となる。
君がまとめるチームには、この「問いの人」を忘れずに。組織の中に「まだ語られていない違和感」に気づく力があるから。

四、ストーリーテラー型参謀・・・ビジョンを語る翻訳者
どんなに優れた戦略も、語られなければ存在しないのと同じだ。だから、「語る力」を持つ参謀を、きみのそばにおきなさい。
歴史、文化、数字、顧客の声・・・それらを編みあげて、CEOのビジョンを“物語”にできる人だ。その物語こそが、社員を動かし、投資家を巻き込み、未来へと導く羅針盤となる。
 実は、私がもっとも得意だったのがこのストーリーテラーだ。ある経営学者が「CEOと国会議員も経験したビジョンを語るのが得意な参謀の嶋氏が同じストーリーを語ることで、説得力が増した」と指摘したこともある。

五、外の視点を持つ“他者”・・・組織を相対化する鏡
外部のアドバイザーや、業界外の先達、VC、哲学者、アーティストでも構わない。きみたちの常識を疑ってくれる「第三の目」を持った存在を招き入れよ。
未来の予兆は、いつも“外”からやってくる。井戸の中からは、海の広さは見えないのだから。

きみがこの5つの視点をバランスよく配し、補い合えるチームをつくることができたら-そのとき、CEOは真に「戦略的に孤独ではない」状態を得るだろう。

最後に、ひとつだけ。
「参謀」とは、情報を持つ者ではない。「関係性」を編む者だ。
情報はAIも持てる。でも、人と人、思考と現実、過去と未来をつなぐのは、人間だけだ。だから、君自身が“最初の参謀”として、人を見て、人を信じ、人を活かすこと・・・それが最も大切なんだよ。
父より

米中関税対立緊張緩和!日本の打ち手は?  2025.5.19

 前回のメルマガにて、トランプ大統領の関税政策は「抑制と均衡に向かう」と予測いたしました。「アメリカの政治は“抑制と均衡(Checks and Balances)”によって動く。トランプ政権の関税政策も、市場という第三のプレーヤーの出現によって必ずや抑制と均衡に向かうであろう」と。

この原稿を執筆している5月16日現在、米国と中国は90日間の暫定的な関税引き下げで合意し、貿易戦争の最悪の事態に終止符が打たれたとの見方が広がっています。5月12日からの週の米株式市場では、S&P500種株価指数が4%上昇し、年初からの下落分を取り戻しました。結果として、「抑制と均衡に向かう」との予測は的中したことになります。

〇「鉛の時代」脱却の一歩、関税緩和

トランプ氏は「私は関税の信奉者だ。私にとって、辞書の中で最も美しい言葉は『関税』だ」と述べ、関税とそれによるアメリカ製造業の復権こそが、アメリカの黄金時代を招くと主張してきました。

しかし現在では、トランプ氏の関税政策に対する評価は極めて厳しく、欧米のメディアでは、関税政策が招いたのは「鉛の時代」であったと評されています。

5月12日以降、米中両政府は大幅な関税引き下げに合意しました。米国→中国への制度上の関税率は145%から30%へ、中国→米国への報復関税も125%から10%へと、それぞれ大幅に引き下げられました。ただし、本質的な譲歩はゼロに等しく、デジタル・金融・知的財産権など非関税障壁への対応は進展していません。

国際的な論調は、「アメリカ第一」主義が「アメリカ孤立」を招き、対中包囲網の形成に失敗し、同盟外交を放棄したことが戦略的敗北につながった、というものです。

その結果、トランプ政権はいくつかの譲歩を余儀なくされました。USMCA協定の条件に沿って、カナダ・メキシコ製品を関税対象から除外し、英国とは関税引き下げ協定を締結。アップルの働きかけによって、iPhoneなどの電子機器は関税対象外となりました。こうした英国、中国の外交を学び日本政府、石破総理、とりわけ赤沢大臣には、現実的な交渉をお願いしたいところです。

米中関税戦争の緊張緩和は、アメリカの経済予測にも好影響を与えました。オックスフォード・エコノミクスは、米国がリセッション(景気後退)入りする確率を従来の50%超から35%に引き下げ、2025年のGDP成長率見通しも1.2%から1.3%へと上方修正しました。UBS(スイスの大手金融グループ)も、関税緩和によってGDP成長を+0.4ポイント押し上げる効果があると試算しています。

これらの期待が、株式市場を押し上げたといえるでしょう。関税緩和は、まさに「鉛の時代」から脱却する第一歩となるはずです。

〇歴史から見る関税政策

市場における自由な競争が「神の見えざる手」によって公益を実現する——この考え方を提示したアダム・スミスの『国富論』が出版されたのは、アメリカ独立の年でもある1776年でした。

“It is the maxim of every prudent master of a family, never to attempt to make at home what it will cost him more to make than to buy.”
『国富論』第4編 第2章
(賢明な家の主人であれば、買うより高くつくものを無理に自家製しようとはしない。それが家計の鉄則である)

この一文は、スミスが「比較優位」の概念を端的に表現したものです。得意な分野に特化し、その他は貿易に委ねる——この原則は、トランプ大統領の思想とは真逆です。

〇予測は歴史を鏡とせよ

私が予測を立てる際の第一原則は、「短期ではなく長期」で見ること。すなわち、歴史を鏡とすることです。
過去にも、アダム・スミスの自由貿易思想に挑戦した権力者はいました。

第一の例は、ナポレオンによる大陸封鎖令(1806年)です。イギリス経済を封じるべく、ヨーロッパ諸国にイギリス製品の輸入を禁じましたが、その結果、フランスの商人や港湾都市が大打撃を受け、経済は混乱。ロシアの離反を機にロシア遠征へと進み、大敗を喫してナポレオン帝国は崩壊しました。「比較優位に基づく貿易」への挑戦は、帝国崩壊という代償を伴ったのです。

第二の例は、1930年のスムート=ホーリー関税法。世界恐慌下で、米議会が900品目超に高関税を課したこの法律は、スミス思想に真正面から反したものでした。結果として、各国が報復関税を導入し、1929年から1934年にかけて世界の貿易量は65%減少。世界経済は停滞し、大恐慌が長期化しました。
今回の米中関税緊張緩和により、同じ過ちは回避されたと考えられます。

トランプ氏と側近ピーター・ナバロ氏は、関税による国内製造業の復活と「黄金時代」の到来を夢見ていました。しかし、現実に起きたのは「鉛の時代」。ナバロ氏はすでに政界を退き、スミス思想への挑戦はまたも敗れたようです。

〇イギリスの政策転換がもたらした黄金時代

19世紀の大英帝国にも、重要な教訓があります。1815年、イギリスは穀物法(Corn Laws)を制定し、戦後の価格下落を防ぐために外国産小麦に高関税を課しました。これは地主層の利益を守る保護主義政策でしたが、パンの価格が2倍になり、都市労働者の実質所得を圧迫。社会不安が拡大しました。今のアメリカと酷似しています。

やがて産業資本家と労働者が連携し、コブデンやピール首相の努力によって1846年に穀物法は廃止。パンの価格は下落し、労働者の生活は改善。実質賃金の上昇が消費を促し、工業生産が拡大。輸出主導型経済が実現し、イギリスは「世界の工場」となりました。これがヴィクトリア時代の繁栄の始まりです。
約200年後、同じ構図がアメリカで展開されています。トランプ政権は中国製品に高関税を課し、関税戦争に突入。家電・日用品・原材料・食品の価格が上昇し、中間層が打撃を受けました。
現在、関税政策は「抑制と均衡」の方向に転換しつつあり、トランプ氏は、就任後100日で多くを学んだはずです。今回の関税政策緩和は、その第一歩に過ぎません。今後の政策転換次第では、ヴィクトリア時代に似た「黄金の2020年代」が実現するかもしれません。アメリカの知恵に、改めて期待を寄せたいと思います。

〇英国、中国から学ぶ日本の打ち手

「外交とは、左手に理想の旗を高く掲げ、右手で相手としっかり握手を交わすものである」——これが私の外交に対する基本的な姿勢です。

現在、通商をめぐる国際交渉の主役は、トランプ大統領と、近年ホワイトハウス内でめきめきと影響力を強めているベッセント財務長官です。日本はこれまで、米国に対して関税の全面撤廃を一貫して求めてきました。しかし今、世界の通商交渉の潮流は、“段階的緩和”によって実利を確保する戦略へと移行しています。

とりわけ注目すべきは、中国の戦術転換です。
2025年4月、中国はトランプ政権と、最大115%の関税引き下げに合意しました。その結果、実質的な関税負担は約35%に低下したとUBSは試算しています。この合意によって市場の動揺は抑えられ、人民元や中国株の安定にも寄与しました。

ここで重要なのは、中国が全面撤廃を主張しなかったという事実です。あえて理想を一時棚上げし、現実的な段階的合意を優先したのです。これは「譲歩」ではありません。むしろ、長期戦を有利に展開するための布石であり、実利と交渉余地を残すための**“柔らかな強さ”**の発露にほかなりません。

まさにここで思い出されるのが、『国際政治』の著者ハンス・J・モーゲンソーの次の言葉です。
“The political realist thinks in terms of interest defined as power, not in terms of motives or ideologies.”
- Hans J. Morgenthau, Politics Among Nations(1948)
「政治的リアリストは、動機や理念ではなく、“権力として定義された国益”の観点から物事を考える。」

日本はこれまで、「関税ゼロ」という自由貿易の理想を掲げてきました。しかし、現実を見れば、英国も中国も完全撤廃は実現していません。

英国は「年間10万台の自動車に限って、関税を25%から10%に引き下げる枠」を獲得しましたが、基本税率10%の撤廃は認められませんでした。中国は、「段階的な関税緩和」によって実質的なコスト負担を抑えつつ、交渉余地を確保するという現実的な成果を手にしています。

日本もまた、「段階的引き下げ」という現実的なステップを踏むことにより、まずは上乗せ14%分の撤廃を実現し、次の交渉への地盤を確保すべきです。

自由貿易を本気で推進するならば、その前提となるのは競争力ある国内産業基盤の維持です。たとえば自動車産業は、日本のGDPの約1割、雇用の約8%を支える“国の背骨”とも言える産業です。この基幹産業に対する25%の追加関税と14%の上乗せ関税が発動されれば、地方経済や中小企業、下請企業に深刻な打撃を与える可能性があります。

まず守るべきものを守る。それこそが、自由貿易という理想を持続させるための現実主義外交であり、中国が先に選んだ道でもあります。

6月にカナダで開催されるG7サミットでは、日米首脳会談が予定されています。いま日本が取るべきは、**理想と現実を巧みに組み合わせた「二層構造の交渉戦略」**です。
首相は引き続き「撤廃」という理念を掲げ、対外的メッセージの旗を降ろさずにおくべきです。一方で、交渉を担う赤沢経済再生担当相は、「見直し」や「段階合意」といった現実的な戦略を進めることが、賢明な外交のかたちだと私は考えます。

最後に、再びモーゲンソーの言葉を引用させていただきます。
“Diplomacy must take the world as it is and try to make it better.”
- Hans J. Morgenthau
「外交とは、世界をありのままに受け入れ、それをより良くしようとする営みである。」
左手には自由貿易という理想の旗を、右手では雇用と産業を守る握手を——。
その両手を駆使してこそ、日本の国益は守られ、理想は未来へとつながっていくと、私は信じています。

トランプ、暴風雨の中のハネムーン  2025.5.1

トランプ大統領就任から100日が過ぎました。一般に「100日間はハネムーン」と呼ばれますが、今回のハネムーンは、まるで暴風雨の中の新婚旅行のようでした(笑)。

プーチン大統領は、トランプ政権との関係を通じて復権の兆しを見せています。また、ドナルド・トランプ氏の側近は、「短期的な市場の混乱はやむを得ない」と発言し、「トランプ・プット(株価下支え)はない」と言い切りました。トランプ氏は、金利引き下げに慎重なFRBのパウエル議長を解任しようと試みましたが、これにより、「アメリカは本当に法治国家なのか?」「この暴走を、もはや誰も止められないのではないか?」といった不安が世界を覆いました。

しかし、この100日間で、アメリカという国には二つの強力な抑制力が存在することが改めて明らかになりました。すなわち、アメリカは単なるトランプ大統領の意志だけでは動かない国であるという事実です。

一つは、建国以来の制度的抑制――**Checks and Balances(抑制と均衡)**です。もう一つは、現代社会における新たなプレイヤー――**市場(マーケット)**です。

アメリカ建国の父たち、マディソン、ハミルトン、ジェイは、「人間は天使ではない」という厳しい現実認識から出発しました。

“If men were angels, no government would be necessary.”(人間が天使ならば、政府は必要ない。)

このように語ったマディソンは、権力を分散させ、互いに監視し合うシステム――すなわち立法・行政・司法の三権分立による抑制と均衡の制度を築きました。この制度は、大統領といえども独断では何もできないように設計されているのです。すなわち、フェデラリストたちが構想した建国理念は、今もなお機能しているのです。

さらに、もう一つ現代的な抑制力として存在するのが市場です。株式市場、債券市場、為替市場――トランプ氏が強硬な関税政策を打ち出すたびに、株価は急落し、債券利回りは乱高下しました。そのたびに、ホワイトハウスは政策方針の微修正を余儀なくされたのです。まさに、市場が「見えざる手」として大統領を抑制したといえます。

ここにこそ、現代アメリカ政治のもう一つのリアルがあります。

この構図をゲーム理論で考えてみましょう。かつての国際政治は「アメリカ vs 中国」のような二国間ゲームが主流でしたが、現在では、第三のプレイヤーである市場が登場し、米中関係は三者ゲームの時代に入りました。

市場は、どちらか一方が極端な行動をとれば、即座にペナルティを与えます。もはや金利政策も関税政策も、極端な振れ方は許されません。制度が力を抑え、市場が行動を制御し、アメリカという国家そのものが「抑制と均衡」を内蔵した存在だからです。これが、私がこの100日で学んだことです。

〇トランプ関税政策も「抑制と均衡」に向かう

「民主社会の真の偉大さは、力を行使することではなく、力を抑制する晴れやかさにある。」

――これは、『アメリカの民主主義』で知られるアレクシ・ド・トクヴィルの言葉です。彼は、アメリカ社会が自由を追求する一方で、権力の集中を恐れ、「制度と均衡」の仕組みを非常に重視していたことを高く評価しています。特に、民主主義の暴走を防ぐため、制度的な**自制心(self-restraint)**を組み込んでいた点に注目しました。

トクヴィルが見抜いたのは、単なる「民意の尊重」ではなく、「制度と文化が自由を守る盾となっている」という本質です。

100日の嵐のハネムーンを経て、トランプ大統領もその側近たちも、多くを学んだはずです。今後、関税政策をはじめとする一連の強硬姿勢も、次第に「抑制と均衡」の方向に向かうと私は予測しています。

実際、「トランプ政権による自動車業界への関税政策の緩和」というニュースが報じられました。これは、供給網の混乱、価格高騰、雇用喪失を懸念した自動車業界の激しいロビー活動の成果だといえます。

現在の関税制度は、「フェンタニル関税(20%)」「鉄鋼・アルミ関税」さらには最大125%に達する「相互関税」といった多層構造になっており、対象や例外が入り組んでいます。しかし、自動車業界には一部の緩和措置が取られ、4月2日の「解放の日」以降、政策の軌道修正が進みつつあります。

トランプ氏はこの日、ほぼすべての国に対して50%の関税を課すと発表しましたが、市場の急落を受け、実施は10%に抑えられました。その後、自動車業界を“例外”として扱う方針を明言し、選挙を見据えたターゲット型支援へと転換しています。

今後、考えられる展開は以下の三つです。

「選挙向け調整」型
 経済への悪影響を考慮し、自動車部品への関税を段階的に緩和する方針。これは日本にとって最も望ましいシナリオです。

「中国包囲網」型
 フェンタニル対策を名目に、中国製部品への関税を強化。米国内製造やUSMCA域内製造への回帰を促す動きが強まります。結果として、中国依存度の高い日本や欧州のサプライチェーンは大きく揺さぶられます。

「政策混乱」型
 関税対象が頻繁に変更され、予測不能な通商政策が続く。これは世界経済にとって最悪のシナリオです。

現在、関税政策は経済政策というよりも、地政学や選挙戦略の道具と化しています。このリスクとチャンスを正しく見極め、変化に動じない企業戦略を構築すべき時が来ています。

〇トランプがパウエルを解任できなかった理由

FRB議長の解任には厳格な法的要件があります。米連邦準備法により、FRB理事(議長を含む)は「正当な理由(cause)」がなければ任期中に解任できません。ここでいう「正当な理由」とは、違法行為、不正行為、あるいは重大な不適格に限られ、「大統領と意見が違う」といった理由では該当しません。

さらに、**1935年の連邦最高裁判決「ハンフリーの遺言執行者事件」**により、大統領による独立機関長の恣意的な解任は明確に禁じられています。

加えて、金利引き下げを決定するのはFRB議長一人ではなく、**連邦公開市場委員会(FOMC)**の合議制に基づいて行われます。たとえパウエル議長の解任に成功しても、FOMC構成メンバーの多くが現行の金融政策を支持しているため、金利政策の変更は現実的に困難な状況にありました。

こうした中、パウエル解任の試みは、訴訟リスクや市場の大混乱を招くおそれがあると指摘され、特に米国債利回りの急騰やドルの信認低下につながるリスクが懸念されました。財務長官ベッセント氏も「市場の反応」を重視して大統領に進言し、最終的にトランプ氏は解任を断念しました。

「株式市場が暴落するなら、われわれは考え直さざるを得ないだろう。」

――これは2019年、トランプ氏自身が発した言葉です。今回も、この言葉が現実となったのです。

このFRB議長解任問題においても、法・制度・市場という三重の壁が、トランプ氏の強権的衝動を抑え込みました。トクヴィルの視点を借りれば、まさに「アメリカの民主主義が本来備えている自己抑制機能が働いた」と言えるでしょう。

嵐のような100日間のハネムーンを経て、今後は「抑制と均衡」を目指す方向にアメリカ政治は動いていく――これが、私の確信です。敬具

〇娘への手紙 「備えとは、恐れるためにあるのではない。未来を守るためにある」

さて、今回は「嶋聡からの手紙」の最後を、仮想の娘「愛への手紙」という形式で締めくくりたいと思います。
この「愛」は、慶應義塾大学経済学部を卒業後、日本の一流企業に勤務し、現在は社会人10年目のビジネスエリートという設定です。

これまで「嶋聡からの手紙」は少々専門的すぎるとのご感想を多くいただいておりましたので、今回は少し趣向を変えてみました。お読みいただき、ご感想をいただければ幸いです。

娘、愛へ
今日は、アメリカで起きていることを一つ、君と共有したい。
バージニア州に住むフォスターさんという、教育関連の仕事に従事する男性が、かつてトランプ政権下の経済好調を信じて再びトランプに投票した。
ところが数か月後、関税政策の影響で物価は上昇し、株価は下落、自分の退職金口座すら怖くて開けられない状態になっているという。

また、ペンシルベニア州のサンフォードさんという女性は、缶詰工場で働きながら家計を支えていたが、関税の影響で工場も資産も打撃を受け、
さらには医療支援の縮小により、大学進学を控える息子の未来まで脅かされていると話していた。

私はこの報道を読みながら、
「これは他人事ではない。いずれ日本でも起こりうることかもしれない」と強く感じた。
なぜなら、日本はアメリカ以上に輸入に依存している国だからだ。食料も、エネルギーも、医薬品も。
アメリカが打ち出す政策の余波を、日本はダイレクトに受けやすい構造になっている。

かつて中曽根改革がレーガン政権を追いかけたように、今もなお日本の政策は、アメリカに「正当性を与えてもらう」ことで動きやすくなる。
だからこそ、アメリカ型のインフレ、格差、生活困難が、数年遅れて日本に上陸してくる可能性は十分にあるのだ。

そこで、君に伝えておきたい。これからの時代に必要なのは、「危機を恐れる」ことではない。未来を守るために、静かに、しかし確実に備えることだ。

私はそのための行動を、次の三つに整理してみた。

1) 生活必需インフラへのリスクヘッジを強化すること

これは個人でも企業でも同じだ。食料とエネルギー、この二つへの備えが最も重要になる。
君の会社がもしグローバルに調達しているなら、調達先の分散、省エネ型の設備投資、リスクシナリオの検討を急いでほしい。
個人としても、エネルギー消費を抑え、国産や地産の食品を意識するだけで、リスク耐性は大きく変わってくる。
2) 資産運用と事業モデルを「インフレ対応型」に切り替えること

預貯金だけでは守れない時代が来る。不動産、金、インフレ連動債――お金の「居場所」も変えていくべきだ。
iDeCoやNISAも、「将来の物価上昇リスク」を前提に設計し直すことが必要だ。
そして企業も、安く輸入して売るモデルから、付加価値を生む国産・輸出型の体質に転換していかなければならない。
「値上げできる商品」こそが、インフレ時代における王道である。

3) 社会保障や教育制度に対して「自己防衛」の意識を持つこと
国や自治体に頼れる範囲は、これから間違いなく縮小していく。老後資金も、医療費も、教育費も、自ら構えていく時代だ。
君のような世代こそ、「国家を前提としない」ライフプランを立ててほしい。

そして会社としても、社員の生活や福祉を守る責任が大きくなる。
地域との共助や制度設計を支援する側に回ることが、企業の信用力に直結する時代になる。

私は常に思う。変化の時代において最も問われるのは、「危機を見通す力」ではない。
それに備える勇気と実行力こそが問われるのだ。

備えとは、恐れるためにあるのではない。未来を守るためにある。
君の未来と、君の仲間たちの未来が、静かな備えによって守られていくことを、私は心から願っている。
父より
「娘への手紙」形式について、ご感想をいただければ幸いです。もしご好評をいただけるようでしたら、今後もこの形式を継続していこうと考えております。

嶋聡note 「読む講演シリーズ」「娘との対話シリーズ」、「娘への手紙シリーズ」

→ https://note.com/satohi_shima

ワシントン、側近同士交渉の行方は?  2025.4.16

 石破総理と同じ鳥取県の出身であり、「石破総理の側近中の側近」と称される赤沢亮正経済再生担当相が訪米し、ワシントンでトランプ大統領の側近であるベッセント米財務長官と協議を行います。
米国は日本に対し、上乗せ税率を24%に設定した後、他国と同様に90日間の停止措置を講じていますが、それとは別に、10%の相互関税に加えて、自動車、鉄鋼、アルミニウムにはすでに25%の関税が導入されています。

赤沢大臣は記者会見で、米国による一連の追加関税の「完全な撤廃」を目標にすると述べました。それが実現すれば、日本にとってこれ以上ない朗報と言えるでしょう。

「側近に誰を選ぶかは、君主にとって軽々しく考えてよいことではまったくない……側近にどのような人を選ぶかは、君主としての能力を測る格好の材料になる。側近が有能で誠実であれば、それを選んだ君主は賢明な人である。その逆であれば、その君主は力量を疑われても仕方がない」と、マキャベリは『君主論』で述べています。

今回の日米交渉は、結果として「側近同士の交渉」となりました。トランプ大統領の側近であるベッセント氏と、石破総理の側近である赤沢氏とでは、「格が違うのではないか」と心配する声も一部にあります。しかし、赤沢氏は日本を代表して交渉の場に立つのですから、一国民として、祈るような気持ちで応援したいと思います。

◆ ベッセント財務長官は「テレビ映えする」?

赤沢大臣の交渉相手であるベッセント財務長官は、言うまでもなくトランプ大統領の側近です。トランプ氏は、ベッセント氏が「テレビ映えする」という理由で、「彼はとても良い」と周囲に話しているそうです(笑)。

ベッセント氏の長年の友人であるリンゼー・グラム上院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)は、「彼は政権のMVP(最優秀プレーヤー)の一人だ」「落ち着いていて論理的で、トランプ大統領のことを理解している」と評価しています。また、ベッセント氏はホワイトハウスにあまり頻繁に姿を現さないことでも、好感を持たれているようです。

トランプ氏は、彼の富と洞察力も高く評価しています。ベッセント氏はサウスカロライナ州の小さな町で育ち、イエール大学を卒業後、1991年に著名投資家ジョージ・ソロス氏のヘッジファンドに加わりました。
1992年には、ソロス氏が英ポンドの暴落を見込んで行った巨額かつ成功した投資で、ベッセント氏は重要な役割を果たしました。その後、2011年から2015年にかけてソロス氏の最高投資責任者(CIO)を務め、のちに自身の会社を設立・運営しました。現在では、豪華な邸宅に住み、自家用ジェット機で移動する生活を送っているというのも、納得のいく経歴です。

〇ベッセントとトランプの役割分担

トランプ氏が4月2日、ホワイトハウスのローズガーデンで新たな関税計画を発表した際、ベッセント氏は同席していました。そして、関税の影響を受ける国・地域に対し、即座に警告を発し、対抗措置を取らないよう求めました。
「どの国も慌てないよう勧告したい」「報復しようとしないことだ。報復しない限り、これが上限の数字になる」
この発言は、市場向け・外交向けの両方に意図されたメッセージでした。市場向けには「最悪の事態は避けられる」との安心感を与え、外交向けには「米国に逆らえば次がある」という暗黙の威嚇を込めたものでした。すなわち、「報復するな」という強い警告でもあります。
ベッセント氏は、数字の確定性と余地の両方を示すことで、交渉の幅と緊張の閾値をコントロールしたといえましょう。
同時に「これが上限」という譲歩的メッセージは、交渉術としての“天井づけ”戦略であり、先に上限を明示することで「報復さえしなければ悪化しない」という交渉空間を提示しました。この語り口は、「制裁 → 譲歩 → 交渉」という外交スタイルの典型的手法といえます。

トランプ氏が記者会見で強硬策を打ち出す舞台にベッセント氏が同席し、その後ベッセント氏自身が“冷静な警告者”として振る舞うという構図は、完全に「役割分担された演出」であり、政策が舞台化されていることを示しています。
トランプ氏が「怒れる声」を演じ、ベッセント氏が「理性的な通訳」を演じる――この二重構造の演出によって、アメリカの交渉ポジションは柔軟かつ強硬に保たれているのです。ベッセント氏は、経済政策をメディア演出と一体で構築する「政治ドラマの脚本家」でもあります。
赤沢大臣が、このベッセント氏を相手に、世界の舞台で見事に演じ切ることができればと願うばかりです。

〇歴史家、ベッセント

ベッセント氏は2024年秋の講演で「ブレトンウッズ体制の再編が起きつつある。国際経済政策を私は生涯かけて研究してきたし、その再編に関与したい」と発言しました。通貨・貿易・防衛を統合的に再設計するという発想は、単なる財務長官の職域を超えた大戦略(グランド・ストラテジー)といえるでしょう。

おそらく、1944年から80年ぶりとなる歴史の大きな潮流の転換点に、自身が参与しているという強い自己意識を抱いているはずです。ベッセント氏は、単なる経済政策担当者ではなく、「歴史意識を持つ戦略的マクロ思考家」です。
彼は、市場での「マクロ取引」的思考を、そのまま国家運営に適用しています。すなわち、株式市場の下落や債券市場の混乱、さらには一時的な景気後退(リセッション)も視野に入れつつ、それを超える構造改革を実現できれば「成功」とみなすという考え方です。

「国家」を一種のポートフォリオとして捉え、短期の損失を許容するハイリスク・ハイリターンの構造転換を厭わない、投資家的発想です。短期的な利益ではなく、構造的かつ長期的な秩序転換を見据える「歴史プレイヤー」志向を持つベッセント氏は、世界が新たな経済秩序の構築を迫られていると捉えています。
彼は、1944年に確立されたブレトンウッズ体制の再編を目指し、国際通貨制度・貿易政策・安全保障の枠組みを再構築しようとしているように見受けられます。歴史を舞台とするプレイヤーとしての自己像を持ち、国家をマクロ戦略の対象とする冷静なリアリストなのです。

このような人物が主導する日米交渉においては、単なる関税や為替の問題にとどまらず、「新秩序構想に日本がどう組み込まれるか」が焦点になることを、交渉担当者は深く理解しておく必要があります。赤沢大臣にその認識があるかどうかが懸念されます。

〇ポスト・ブレトンウッズ体制とは?

ベッセント氏の真の狙い──すなわち「ポスト・ブレトンウッズ体制における米国主導の新秩序構想」の核心を、私なりに以下の3点に要約します。

第一:ドル基軸体制の維持と外部転嫁による多国間調整
ドルは現在、変動相場制の下で世界の準備通貨として安全資産の地位を保ち、「常に高止まりする」という構造が続いています。一方で、米国は製造業の再興(再工業化)を目指しており、ドル高は輸出競争力を損なうジレンマに直面しています。
固定相場制に戻ることは考えにくいものの、為替の「目標ゾーン」や「協調介入の事前合意」といった、1985年のプラザ合意に類する“ソフト・コーディネーション体制”を多国間で復活させるのではないでしょうか。
とりわけ、日本、EU、インド、ベトナムといった「米国側の準基軸通貨国」に対し、為替調整や貿易是正を制度化する可能性があります。つまり、ドルの“覇権”は温存しつつ、その“代償”は他国に転嫁する──これこそがベッセント的ポスト・ブレトンウッズ体制の中核と考えられます。

第二:選別的自由貿易圏=ブロック化
WTOは機能不全に陥っており、GATT型の多国間自由貿易体制は、中国の国家資本主義を許容したというのがトランプ政権の認識です。ただし、全面的保護主義は世界経済の成長や金融市場の安定をも損なう恐れがあります。
そこで、トランプ政権は世界を「善良な同盟国」と「不良な独裁国家」に分け、善良な側には市場アクセスや規制緩和、関税優遇などを提供し、不良な側には制裁関税やサプライチェーンからの排除で対応する──いわば「経済版NATO」「自由と秩序の経済連合」の形成です。

これは、WTO型の普遍主義から“価値同盟型の選別主義”へのパラダイム転換であり、自由貿易の“再定義”を通じて、米国が国際経済ルールを再設計する動きといえます。

第三:経済と安全保障の一体化
戦後のブレトンウッズ体制では、米国が「安保の提供」と引き換えに「自由貿易圏の拡大」を実現してきました。しかし、今日では米国は「過剰な赤字」と「過小な同盟国負担」に不満を抱いています。

ベッセント氏は、同盟国に対して「経済(通貨・貿易)政策と軍事同盟義務をセットで再契約」させる意図を持っているかもしれません。たとえば、日本に対しては、円高容認・為替介入、米国製造業への投資、防衛負担増、サプライチェーン再編協力(対中封じ込め)といった要素を、“包括合意パッケージ”として提示してくる可能性があります。
つまり「経済の独立」と「軍事的保護」は切り離せないという“属国的条件”の再定義が、背後に存在するのです。

〇日本のリスクは?

ポスト・ブレトンウッズ体制の再編をめざすベッセント氏が、その初期交渉相手として日本を選んだという事実は、米国が日本を「組みやすい相手」と見なした結果と考えるべきでしょう。それが国際政治の現実です。
側近同士の交渉による日本のリスクは、以下の3点に集約されます。
1.円高圧力の再来:1985年のプラザ合意的な為替誘導が繰り返される懸念。
2.経済NATO構想による中日関係への影響:経済ブロック化は、中国との経済的結びつきが深い日本にとって微妙な緊張をもたらす。
3.安保と通貨のリンク:防衛負担の増加が経済交渉の条件となる可能性。
ただし、ベッセント財務長官は、複数国との同時並行的な交渉において「最初に合意に至った国が最も有利な条件を得られる」とする「ファースト・ムーバー・アドバンテージ」の概念を強調しています。彼は「通常、最初に合意に達した国が最良の条件を得る」と述べており、これは交渉を迅速に進めるための戦術と考えられます。

日本政府は、米国との交渉において慎重な姿勢を保ち、安易な譲歩を避ける意向を明確にしています。石破茂首相は「急がば回れ」と述べ、拙速な妥協を避ける構えを見せています。

一方で、米国側には、日本との交渉を通じて他国との交渉における「前例」を作ろうとする意図があると見られます。ベッセント氏が日本を最初の交渉相手に選んだのは、戦略的な重要性と交渉モデルとしての意味づけがあってのことでしょう。
赤沢大臣が、この歴史的局面において、見事な成果を上げられることを、心より期待いたします。

プラザ合意40周年。第二プラザ合意はあるか?  2025.3.26

 3月22日、東京で日中韓の三国外相会談が開かれました。今でも自転車でツーリングをする岩屋毅外務大臣のエネルギッシュな顔、駐日中国大使時代と変わらぬクールな口調の王毅中国外相。議員時代によく食事しながら議論をした方々の顔を懐かしく見ておりました。
日中韓で世界のGDPの2割にあたります。トランプ米新政権による関税引き上げやウクライナ停戦協議を巡る米ロの接近など国際情勢は不確実性を増しています。アジアの各国から注目された会談でした。
王毅共産党政治局員兼外相は日中韓外相会談後の共同記者発表で、トランプ米政権の保護主義的な経済政策を念頭に「われわれは多国間主義と自由貿易を堅持し、グローバル化をより包摂的な方向に向けて発展させる」と表明しました。この三国は国際競争力のある産業を多く持ち、自由貿易を擁護したほうが経済的利益のある国々です。

世界は今、保護貿易と関税を推進する米国、トランプ政権と表向きは自由貿易体制を擁護する中国が対峙しているように見えます。
ただ、トランプ大統領とその側近が単純に経済学者らの批判が多い「保護貿易」と「関税」を推進しているとは思いません。トランプ政権には何か、大きな歴史的、戦略目標があるように思えます。
これを考えるキーワードは、「第二のプラザ合意」とドイツの哲学者、ヘーゲルの「アウフヘーベン」です。

〇プラザ合意40周年

2025年。今年は、ある“金融史上の転機”からちょうど40周年にあたります。
1985年9月22日、ニューヨークのプラザホテルで開催されたG5――米国、日本、西ドイツ、フランス、英国の財務大臣と中央銀行総裁が一堂に会した「プラザ合意」です。日本からは竹下登大蔵大臣が出席。日本の総理は当時のレーガン大統領、英国サッチャー首相と思想を同じくした中曽根康弘氏でした。
この合意の目的は、ドル高の是正。アメリカの貿易赤字を是正するために、各国が協調してドル売り・自国通貨買いを進めるというものでした。結果として、1ドル=240円台だった為替レートは、2年で120円台まで急騰。日本は円高不況に陥り、そこからバブル経済の熱狂が始まることになります。
あれから40年。2025年の今、ウォール街では「第二のプラザ合意」の可能性が取り沙汰されています。
それは単なる為替水準の調整ではありません。第二次大戦後を通じて築かれてきた自由貿易と通貨秩序の再編。すなわち、アメリカを中心とした“ブレトンウッズ体制とGATTそのものの問い直し”を含む、大きな歴史的転換の予兆ともいえるのです。

〇株式市場の動揺は「想定内」

この再編の中心にいるのが、2025年1月に再び大統領に返り咲いたドナルド・トランプと財務長官ベッセント氏をはじめとするその側近達です。
トランプ政権は就任直後から、世界に衝撃を与える通商政策を矢継ぎ早に発表しました。就任100日以内に「全輸入品に10%の関税」。中国に対しては「最大60%の追加関税」。WTOなどの多国間枠組みより、「双務主義=1対1の交渉」を重視。こうした姿勢は、市場に強い不安を与えました。
2025年3月10日、米国株式市場は急落。前年12月の最高値から13%以上下落し、テクノロジー株を中心とするナスダック指数も13%以上の下落。「調整局面入り」とされる10%超の下落ラインを超え、恐怖指数(VIX)も12から28へ急騰。市場は大きく揺れました。

しかし、ホワイトハウスは動じません。3月10日、報道官は次のように述べました:
「株式市場のアニマルスピリットと、企業や経営者が実際に見ている現実には、大きな差がある。後者の方が、中長期の経済を見通すうえで重要なのは明らかだ」
さらに、財務長官ベッセント氏はこう発言しています。「株価の下落が続いても、政策は修正しない。“トランプ・プット”は存在しない」「市場も経済も、政府支出依存という“中毒状態”にある。今はそのデトックス期間だ」。つまり、現在の市場の混乱は想定内であるというのです。

1期目の政権では、株価が急落すると政策を見直す姿勢を見せていましたが、今回は違います。「短期の混乱よりも、長期の秩序再編を優先する」という強い意志がうかがえます。

〇アメリカと中国の通商秩序対立と「自由貿易のアウフヘーベン」

今、世界は一見すると対照的な構図にあります。
中国:自由貿易の擁護者として振る舞い、RCEPや一帯一路を軸に多国間協定を主導
アメリカ:保護主義を打ち出し、関税・投資規制・サプライチェーン再構築を進める

「自由貿易 vs 保護主義」という単純な対立に見えるかもしれません。しかし本質はもっと深いところにあります。
ドイツの哲学者ヘーゲルは『精神現象学』の中で、「アウフヘーベン(止揚)」という概念を提示しました。これは、小池百合子東京都知事が“希望の党”立ち上げ時に言及した、“A党とB党が合流してC党になる”という発想と混同されがちですが、アウフヘーベンとは全く異なる概念です。ただの折衷案や妥協ではありません。
対立するものが激しくぶつかり合い、矛盾の限界にまで達したとき、それぞれの“悪い部分”を捨て、“良い部分”を引き継いで、より高次の知へと進化する知的飛躍。これがアウフヘーベンの本質です。

ヘーゲルは、すべての発展は「正(テーゼ)」と「反(アンチテーゼ)」の対立から始まり、その矛盾を超えて「合(ジンテーゼ)」というより高次の統一=止揚(アウフヘーベン)に至ると説きました。
たとえば、自由貿易主義が「正」としてグローバル化を推進し、保護主義や国家主導経済が「反」としてその歪みに反発し、両者の矛盾を越えて、「信頼性と開放性を兼ね備えた新しい秩序」を目指す「合」が模索されている。こうした「止揚」の考え方は、国際政治・経済の中で今まさに現実的な課題となっています。
いま、世界が直面しているのは「グローバリズムの限界」と「国家主権の再構築」という深い矛盾です。トランプとその側近ベッセント氏は、これまで当然とされてきた“自由貿易こそ善”という価値観そのものを疑い、壊しにかかっています。
それは、破壊のための破壊ではなく、「自由貿易体制のアウフヘーベン」と呼ぶべき動きかもしれません。

たとえば、AI・半導体・EVバッテリーのように、技術や軍事・経済の安全保障に直結する産業では、単純な自由貿易では国家の安全が確保できなくなっています。
トランプ政権が進める「関税」や「サプライチェーンの国有化」「産業補助金の強化」は、まさにこの矛盾の極点から生まれる“高次の知恵”とも言えるのではないでしょうか。

〇世界精神の意志に沿う者――ナポレオンを例として

ヘーゲルは「歴史哲学講義」の中で、もう一つ、非常に重要な視点を提示しています。
「歴史上の偉人とは、自分の目指す特殊目的が、世界精神の意志に合致するような実体的内容をもつ人のことです。」
つまり、偉人とは、自分自身では特定の目的――例えば領土の拡大や富の増大――を追いかけているつもりであっても、結果として歴史を動かし、世界の方向性そのものを変えてしまう存在なのだと。
ヘーゲルがナポレオンを「馬上の世界精神」と称したのもそのためです。ナポレオンの意図はフランスの国益だったかもしれませんが、彼の行動はヨーロッパに近代的な法と制度をもたらしました。

〇トランプの「特殊目的」はどうか?

では、ドナルド・トランプ氏はどうか。
彼が掲げたのは「アメリカ・ファースト」。関税を上げ、中国や同盟国との貿易赤字を問題視し、WTOや多国間協定に懐疑的でした。自由貿易を疑い、保護主義的な政策に大きく舵を切ったわけです。
これを一見すると、「時代錯誤のナショナリスト」「ポピュリズムの代表」と切って捨てるのは簡単です。しかし「果たしてそうだろうか」というのが私の思いです。アメリカ国民が報道されるような単純な理由だけでトランプを選んだとは思えません。

私たちは今、あらためてこう問うべきではないでしょうか。「彼の目的は特殊だが、結果として“世界精神の意志”に合致していたのではないか?」と。
トランプ氏が自ら哲学を語ることはありません。ですが、彼の掲げる“特殊目的”――アメリカ産業の回復、貿易赤字の是正、自由貿易体制の打破――は、今という時代に必要な“歴史的必然”と合致している可能性があります。

だからこそ、今後世界が向かう方向性としては、単なる「保護主義への逆戻り」ではなく、自由貿易のアウフヘーベン=新しい均衡点の創出こそが、次の国際秩序になるはずです。

〇2025年9月22日、「第二プラザ合意」に備えよ

1985年のプラザ合意から、ちょうど40年。2025年9月22日――この日が、新たな通商秩序の象徴となる可能性があります。

政府は「経済安全保障」をどう戦略に組み込むか?サプライチェーンは分断ではなく「再設計」できているか?輸出入ビジネスは、通貨リスクや政策リスクに備えられているか?インバウンドでオーバーツーリズムを嘆いている地域経済も第二プラザ合意で一挙に円高に進んだら、大混乱でしょう。
自由貿易が完全であるはずのない世界で、あまりにも理想主義的なルールを押しつけた結果として、国内の不満が蓄積し、ポピュリズムや極端なナショナリズムを生む土壌となってしまっています。その典型がアメリカです。
こうした反省のもとで、いま各国は「市場に全てを任せるのではなく、国家としての意思と戦略で経済構造を再設計する」方向へと動き始めています。日本も企業経営者も「第二のプラザ合意」があると予測して備えてはならない時と思います。

トランプ主導の「新しい時代」に  2025.3.13

 トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談が決裂したかと思えば、3月11日にサウジアラビアで行われた高官協議では、ウクライナがロシアと30日間の暫定停戦を巡る米国の提案を受け入れました。米国のルビオ長官は、ロシアとウクライナが「可能な限り早期に」合意することを望んでいると述べています。今後、トランプ大統領とロシアのプーチン大統領の間で交渉が進むことでしょう。

〇新しい時代=超大国が決める時代

世界は「新しい時代」に突入しました。アメリカを率いるトランプ氏の世界観は19世紀的とも言えます。つまり、世界の行方は国際機関によって決められるのではなく、それぞれの勢力圏で強い影響力を持つ超大国と、その国を率いる強力な指導者たちによって決まるという考え方です。具体的には、トランプ大統領、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席の三者が主導する世界です。

国連安全保障理事会において、ウクライナ紛争の「早期終結」を求める米国の決議案が採択されましたが、ロシアを非難する文言は含まれていませんでした。この決議案をロシアと中国が支持し、採決を遅らせようとしたフランスと英国は棄権しました。従来はフランス・英国が賛成し、中国・ロシアが反対する構図でしたが、国際政治の勢力図が明らかに変化してきています。

この「新しい時代」において、超大国が国際政治を主導する一方で、フランス、英国、ドイツなどのヨーロッパの中級国家のリーダーたちは難しい舵取りを迫られるでしょう。我が国・日本もまた「中級国家」であり、慎重な対応が求められます。

19世紀に日本の舵取りを担った西郷隆盛は、中国の春秋戦国時代の歴史に学び、「孫子を読め」と説きました。しかし、現代の我々の世代は、西郷隆盛の時代ほど漢籍に親しむ機会が少なくなっています。そこで、これからの時代を読むリーダーには、春秋戦国時代を題材にした漫画『キングダム』(原泰久、ヤングジャンプ、全74巻)を読むことをお勧めします。

私と同世代の方々の中には、横山光輝の漫画『三国志』で歴史を学んだ人が多いでしょう。中堅・中小企業が大企業に対抗する経営戦略を考える上で、諸葛亮孔明の戦略は大いに参考になったはずです。しかし、これからの「超大国の時代」には、『キングダム』のほうがより示唆に富んでいます。

〇西郷隆盛が見た国際社会

19世紀、帝国主義の渦巻く国際社会の中で、日本の命運を担った西郷隆盛は、『南洲遺訓』の追加の条で次のように述べています。
「道は天地自然のもの、東西の別なし。苟も万国対峙の形勢を知らんと欲せば、『春秋左氏伝』を熟読し、助けるに『孫子』をもってすべし。当時の形勢とほぼ大差なかるべし。」
現代語訳すると、「もし、現在の世界各国が対立している様子を知ろうと思うならば、『春秋左氏伝』(中国の古い史書)をよく読み、さらに補助として『孫子』(中国の兵書)を読むがよい。今の世の中の様子とはほとんど大きな違いはないであろう。」という意味になります。これは令和の時代においても変わりません。

中国の春秋戦国時代(紀元前770年~紀元前221年)は、多くの国が覇権を争った時代でした。大小の国々が同盟を結んだり裏切ったりしながら勢力を競い合い、その中で特に有名なのが「合従策」と「連衡策」です。
合従策: 戦国時代後期に蘇秦が提唱した戦略で、秦の侵略を防ぐために、韓・魏・趙・楚・燕・斉の六国が南北に連合するというもの。
連衡策: 張儀が唱えた戦略で、六国が秦と個別に同盟を結び、秦に従うよう仕向ける政策。
最終的には秦が戦国七雄を滅ぼし、中国を統一しましたが、この外交戦略は現代にも通じるものがあります。

〇現代のロシアとヨーロッパにおける合従連衡の類似性

この春秋戦国時代の合従連衡の構図は、現代の国際政治、とりわけロシアとヨーロッパの関係と驚くほど似ています。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、NATOとEUはロシアに対抗するための結束を強めています。スウェーデンとフィンランドのNATO加盟(2023年・2024年)は「合従策」に相当し、北方の防衛ラインを強化しました。これは、かつて燕や趙が秦の進出を防ぐために合従を試みたのと同様の動きです。2024年時点で、米欧諸国からウクライナへの軍事支援額は総額2000億ドル超に達し、戦争の長期化を防ぐための「集団防衛」を進めています。

一方、ロシアは「連衡策」を駆使し、ヨーロッパ諸国の分断を図っています。
ハンガリーのオルバン政権はEU内で唯一、ロシア寄りの政策をとり、ウクライナ支援の遅延を招いています。2023年のマクロン仏大統領のロシアとの対話の示唆や、ドイツ国内での「ロシアとの関係再構築論」も「連衡策」の一環です。このように、春秋戦国時代の合従連衡策と現代の国際戦略には驚くほどの類似点があるのです。

「史記」や「左氏伝」「戦国策」などの中国古典を読むのが理想ですが、現代人にとっては漫画『キングダム』が最適な入門書となるでしょう。第一に、合従策: 六国が秦に対抗する場面が戦略的に描かれています。さらに、連衡策: 張儀が外交を駆使し、各国を分断する様子が理解しやすく書かれています。
「迷った時ほど遠くを見よ」。歴史を学ぶことでビジネスや政治戦略の洞察を深めることができます。日本の未来を見据えるためにも、『キングダム』を是非読んでみてください。

〇ゼレンスキーには「狐の知恵」がなかったのか?

2月28日の会談について、英国の高級紙 デイリー・テレグラフ は、ゼレンスキー大統領がトランプ大統領とバンス副大統領による「罠」にかかり、事態が悪化したと分析しました。これは、英国の タイムズ や ガーディアン と並ぶ有力紙の見解であり、私もこの側面はあったと考えています。通訳をつけなかったことが失敗だったと指摘する声もありますが、私はそれ以上に、トランプ氏の発言に対するゼレンスキー氏の対応に問題があったと考えています。

16世紀のイタリア、フィレンツェの外交官 マキャベリ は、以下のように述べています。
「君主が獣のように振る舞う必要があるとき、彼は狐と獅子の特性を学ばなければならない。獅子は罠から身を守ることができず、狐は狼から身を守ることができない。したがって、罠を見抜くためには狐であり、狼を威圧するためには獅子でなければならない。」
ゼレンスキー氏には、この「罠を見抜く」ための 狐の知恵 が不足していたのではないでしょうか。

今後の課題として、ヨーロッパが団結を維持できるかどうかが問われます。この点についても、マキャベリは次のように述べています。
「君は言うだろう。『そうはならないだろう。我々は彼らに対し、一致団結するであろうから。』しかし、私は君の意見には反対だ。大国の指導者たちが一致団結するのは難しい。また、たとえそれを実現できたとしても、団結を維持し続けるのは、これまたひどく難しい。」
この言葉は、現在の国際社会においても一面の真理を突いています。中級国家にとって、今後も難しい局面が続くことが予想されます。

〇ゼレンスキー氏の支持率が上昇

トランプ会談では翻弄されたゼレンスキー氏ですが、ここ最近、政治的には支持率が上昇しています。ウクライナの小国ながらも、堂々とトランプ氏に対峙した姿勢が、国民から評価されているようです。
キーウ国際社会学研究所が 2月14日〜3月4日 に実施した世論調査によると、ゼレンスキー氏を 「信頼している」 との回答は 67% に達し、前回(2月上旬)から 10ポイント上昇 しました。一方、「信頼していない」 との回答は 37%から29%へ減少 しています。

ゼレンスキー氏の支持率は、侵略直後の 2022年5月には90% に達していましたが、その後は低下傾向が続き、最近は 50%台 で推移していました。人気低迷の要因としては、国内の汚職対策の遅れ や、ロシアとの戦況膠着 が指摘されていました。

2月28日の会談直後、トランプ氏やその周辺は ゼレンスキー氏の退陣の必要性 に幾度も言及しました。トランプ陣営は、自らが目指す 早期和平の障害となりうるゼレンスキー氏を排除するシナリオ を検討していたという情報もあります。
しかし、最近の支持率上昇を受け、ゼレンスキー氏の 退陣シナリオを模索していた米側も、続投を容認する姿勢 を見せ始めています。さらに、ロシアとの停戦後に想定される 次期大統領選 においても、ゼレンスキー氏の再選の可能性が浮上しています。ゼレンスキー氏が ロシアへの抵抗の象徴 である以上、ロシアが描いていた「ゼレンスキー退陣」のシナリオは狂いつつあるのです。

ただ、米ニュースサイト ポリティコ は 3月6日 に、トランプ氏の側近がゼレンスキー氏の政敵であるティモシェンコ元首相やポロシェンコ前大統領らの関係者と秘密裏に会談し、早期の大統領選の実施について議論した と報じました。ウクライナの政局は今後、さらなる動きを見せる可能性があります。

〇中級国家のリーダーがとるべき道

西郷隆盛は、『西郷南洲遺訓』 第17条 で、大国に対峙するリーダーの心構えについて述べています。
「正道を踏み、国をもって倒れる覚悟なくして、外国との交際は全うできない。
彼らの強大さに恐れをなし、ただ円滑な関係を重視して自国の意見を曲げ、相手の言いなりになると、軽侮を招き、友好関係は破れ、最終的にはその支配を受けることになる。」

これは、超大国と対峙しなくてはならない日本の政治家 にとっても、そして 大企業と対峙する中堅・中小企業の経営者 にとっても、肝に銘じるべき言葉です。
私たちは、強国に対して単に「従う」だけではなく、自国の利益を守りつつ、巧みな外交と戦略的思考で立ち回らなければなりません。マキャベリが説いたように、「獅子」と「狐」の両方の知恵を持つリーダーが求められる時代 なのです。

「バフェットの手紙」が再発見した日本企業  2025.2.27

 オバマの賢人、米国のウォーレン・バフェット氏は、孫正義氏も目標の一人としている人物です。その、バフェット氏が2月22日に毎年恒例の「株主への手紙」を公表しました。「嶋聡の手紙」というネーミングは、この「株主への手紙」にヒントを得たものです(笑)
バフェット氏の手紙は、長期的な視野と冷静な判断力を示す好例として評価され、特に市場のノイズに惑わされない投資哲学が絶賛されています。

〇日本の五大商社保有率をコカ・コーラと同等に

注目すべきは、その手紙の中で日本の5大商社への投資拡大に意欲を示したことです。各社の株式保有上限は従来10%未満とされていましたが、「上限を適度に緩和することで5社は合意した」と明らかにしました。
五大商社におけるバフェット氏の持ち分は、伊藤忠が7.47%、三菱商事が8.31%、三井物産が8.09%、住友商事が8.23%、丸紅が8.30%となっており、2024年末の時価総額は235億ドル(約3兆5000億円)に達しています。
一方、バフェット氏が保有している米国株を見ると、発行株式総数が非常に多いアップルでは約5~6%、コカ・コーラでは約9%、バンク・オブ・アメリカでは約10~11%となっています。
バフェット氏は日本の商社株の保有比率を10%以上にするというのが今回の目標です。コカ・コーラやバンク・オブ・アメリカ並みの比率を目指すということになります。
バフェット氏は、「短期的な市場の騒音に惑わされず、企業の本質的な価値に注目すること」が投資成功の鍵であるといいます。日本企業が本質的な価値を有する投資対象として有望であると評価されたことは嬉しく思います。

〇2019年、日本商社を再発見

バフェット氏は手紙の中で、「日本の商社はエネルギー、資源、テクノロジーといった多角的な収益源を背景に、世界の不透明な経済環境下でも安定したキャッシュフローを生み出す稀有な存在である」と述べています。日本商社を地政学リスクがある世界に適応する「危機管理ができるビジネスモデル」をもっていると「再発見」したということでしょう。
実際、バフェット氏の日本商社株への投資は2019年から始まっています。当時の株式市場では、「コングロマリットは企業価値を下げる」「選択と集中が必要」という常識があり、格安に放置されていました。バフェット氏はその盲点を突きました。常識とされたのは「思い込み」で、可能性ありと「再発見」したのです。

この投資は最近ではなかなか見られないほどの成功をもたらしました。バフェット氏が2019年に商社5社へ投資した額は、78億ドル(約1兆1600億円)であり、2024年末の235億ドルと比較すると約201%の上昇となり、年率換算の内部収益率(IR)は約25%となっています。(CHATGPT試算)

日本企業の時価総額ランキングを見ると、三菱商事は16位、伊藤忠は17位、三井物産は21位と、総合商社はベスト10には1社も入っていません。(2月24日現在)
今年は総合商社のビジネスモデルが再評価され、時価総額が上昇し、ベスト10に入る年になるかもしれませんね。

〇日本企業再発見2・・百年企業が多い

日本は百年企業が多い国であり、世界一です。2022年の調査によれば、世界の創業100年以上の企業総数74,037社のうち、日本は37,085社を占め、全体の50.1%に達しています。2位のアメリカは21,822社(29.5%)、3位のドイツは5,290社(7.1%)です。
ソフトバンク時代に、どんな業種が多いか調べたら造り酒屋、旅館、酒販売業が多いことがわかりました。
旅館業は政府の政策、たとえば宿場町や観光振興によって長期的に保護されていました。また、酒造業や酒販売業は、政府の重要な税収源として免許制が維持され、新規事業者が参入しにくい環境にあったとされています。

酒造業(造り酒屋)は、幕府による免許制度の下で運営され、「酒造株」と呼ばれる免許が発行されていました。この免許がなければ酒を造ることはできず、新規参入が制限されました。さらに、米の供給量によって酒造の許可が制限されることもあり、酒造業者は安定した市場を得やすかったのです。江戸時代後期には「酒屋仲間(ギルド)」が形成され、特定地域において独占的な販売権を持つことで競争が制限されました。

また、旅館業においては宿場町制度が存在し、幕府は宿場町ごとに「本陣」「脇本陣」「旅籠屋」などの旅館業態を整備し、これらの営業権を特定の家系に与えることで、旅館業の独占的な事業継続を保証していました。さらに、武士が定期的に江戸と藩を往復する「参勤交代」制度により、宿場町の旅館業は安定した収益を確保することができたのです。

酒販売業も免許制であり、限られた商人のみが販売許可を得る仕組みとなっていたため、競争が抑えられ、高い利益率を維持しやすかったといわれています。免許や規制産業は参入が難しいものの、一度参入すると競争が少なく、利益率が高い事業となります。
日本では家訓に基づく慎重な企業文化と、規制産業であるためにもたらされた利益を慎重に、不動産や株式に投資していったことが長寿企業を生み出した秘訣とされています。

〇現代版、長寿企業への戦略

したがって、長寿企業になるためには、以下のような方程式が成り立つと考えられます。
規制産業+不動産・株式投資=長寿企業
事業家であると同時に投資家であることが、長寿企業への道であるといえるでしょう。

この考え方の現代版の例が放送事業です。最近話題となっているフジテレビ、フジ・メディア・ホールディングスの2025年3月期の業績予想を見ると、売上高は前期比3.2%減の5,482億円、営業利益は前期比46.3%減の180億円と見込まれています。
今回の問題により、フジテレビのクライアント減の影響を受けた放送収入は1,473億円にとどまり、メディア・コンテンツ事業は前期の157億円の利益から33億円の赤字へと転落しました。
一方で、都市開発・観光事業は非常に好調です。土地と建物を合わせて約5,110億円を保有し、236億円の利益を計上しています。かつて、規制産業であるメディア事業で得た利益を不動産に投資してきたことが、現在の経営基盤の安定につながっています。

ソフトバンクグループも同様に、携帯電話事業という営業利益率の高い規制産業でキャッシュを生み出し、それを投資に回すという戦略を取っています。これもまた、現代版の長寿企業戦略といえるでしょう。
孫正義氏は「経営者は事業家であると同時に投資家であるべきだ」と語っています。

〇バフェットに学ぶ投資家訓十条

長寿企業を目指すには、事業家であると同時に投資家であるべきという観点から、バフェットのベストセラー『バフェットからの手紙』を参考に、「バフェットに学ぶ投資家訓十条」を作成しました。ぜひ参考にしていただければと思います。

バフェットに学ぶ投資家訓 十箇条
第一条 『事業そのものを所有するつもりで投資せよ』
企業の本質的価値を見極め、投資先の事業内容や競争優位性など、企業の実態や将来性を十分に理解せよ。事業そのものを所有するつもりで投資し、短期の市場の変動に流されることなく、企業の実力を重視せよ。

第二条 『長期に保有し利益を得るのが最良の投資』
優良な企業を適正価格、もしくは割安で購入せよ。最良の投資は「長期的に保有することで利益を得ること」にあり、安く買って高く売ることではない。
ただし、経営環境や企業の根本的な価値が変わった場合には売却判断も必要。根本が変わらないなら売らず、変わったなら見直すという柔軟性を持て。

第三条 『無駄な売買を戒めよ』
頻繁な売買は手数料と税金を増やし、資産の成長を阻害する。適切な企業に投資したならば、時間を味方につけよ。

第四条 『負債を恐れよ』
個人は借金による投資は危険である。市場の暴落時に資金を失うことなく、買い増しできる余力を持て。ただし、企業なら戦略的にレバレッジを利用する場合も良し。

第五条 『複利の力を信じよ』
短期の利益ではなく、長期の成長を優先せよ。利益を再投資し、雪だるま式に資産を増やすことが最善の道である。

第六条 『シンプルを貴べ』
自分が理解できない事業には投資するな。わかりやすいビジネスモデルの企業を選び、長期的に競争優位を保つ会社に資本を投じよ。

第七条 『市場の狂気に付き合うな』
市場は短期的には感情に流されるが、長期的には企業の本質的価値に収束する。市場の過熱時に浮かれず、不況時には冷静に買いの機会を狙え。

第八条 『誠実なる経営者と共にあれ』
企業のトップは誠実であるべし。経営者が株主と利益を共有し、長期的視点で経営を行う企業を選ぶことが重要である。

第九条 『消費者視点を忘れるな』
消費者にとって価値のある商品・サービスを提供する企業は成長する。価格決定権(プライシング・パワー)を持つ企業に投資せよ。

第十条 『決して慌てるな』
機会は待つことで訪れる。投資は将棋のように一手一手を考え、最適なタイミングで動け。無理に勝負せず、良い機会をじっくり待て。

 愚者は自分の経験から学び、賢者は他人の経験から学ぶといいます。投資でも「オバマの賢人」の手法を学ぶことは意義あることと思います。経営者の方は是非とも「事業家であると同時に投資家」になっていただきたいと思います。

トランプ保護貿易がディープシークを産んだ?  2025.2.13

 2月11日、トランプ前大統領はアルミニウムと鉄鋼に新たな関税を課しました。今回の措置により、一部の輸入品に対して最大25%の追加関税が適用されます。トランプ氏は声明の中で、「米国の製造業を守るために必要な措置だ」と強調し、中国や他国による不公正な貿易慣行を批判しました。

これまで、自由貿易の旗手とされてきたアメリカが、トランプ氏によって保護貿易に転じてしまったことを懸念する論調が多く見られます。しかし、歴史を振り返ると、アメリカはもともと国内産業を重視する保護貿易の国でした。「アメリカ・ファースト」という言葉の通り、一国の大統領が自国を第一に考えるのは当然のことです。これからは、「ニューノーマル」の時代に合わせた経営の在り方を考えなければなりません。

一般的に、保護貿易や関税はネガティブなものとして語られることが多いですが、実際にはイノベーション、すなわち技術革新を生み出すポジティブな側面もあります。
例えば、1930年代に生糸への関税が課されたことをきっかけにナイロンが誕生しました。また、保護貿易の影響でブラジルでは余剰のコーヒー豆が海中投棄される事態が発生しましたが、これがきっかけとなりインスタントコーヒー「ネスカフェ」が生まれました。
さらに、アメリカが保護政策により中国への輸出規制を強化し、中国企業が技術自立を迫られた結果、ディープシーク社によるAI技術が開発されました。ディープシークの発表はエヌビディアに大きな影響を与え、同社の株価を18%下落させました。

日本の経営者、ビジネスマンも、トランプ保護政策をきっかけとしてとらえ、イノベーションを推進すべき時にあると考えます。

〇最初の経済政策は関税

アメリカ独立戦争(1775~1783年)後、独立したばかりのアメリカには強力な中央政府がなく、財政基盤も不安定でした。そのため、関税を国家財源の柱とする政策が採られました。
フランス革命が勃発した1789年に制定された関税法(Tariff Act of 1789)は、アメリカ初の主要な経済政策であり、輸入品に関税をかけることで政府の財政を安定させました。この時点で、「関税=国家経済の基盤」という考え方が確立されたのです。

トランプ氏が「辞書の中で最も美しい言葉は『関税』だ」「関税は素晴らしい!」「私たちは中国から何十億ドルも関税で得ている」と語る背景には、このような歴史的経緯があることを理解する必要があります。

〇南北戦争は保護貿易(北部)対自由貿易(南部)の対立

日本が明治維新に向かっていたころに起きた南北戦争(1861年~1865年)は、奴隷制度をめぐる対立と思われがちですが、本質的には経済政策の衝突でした。
自由貿易を唱える南部は、綿花など国際競争力のある農業が主力でした。一方、北部は、イギリスやドイツの工業に対抗できるほどの産業競争力を持たず、脆弱な工業が中心で保護貿易を主張しました。この対立の結果、北部が勝利を収めました。

北部の勝利により、アメリカは保護貿易政策を本格的に強化しました。モリル関税法(Morrill Tariff)は、イギリスなどからの輸入品に高関税を課し、国内産業を保護する措置でした。この政策は、映画「風と共に去りぬ」の舞台となった南北戦争後の時代に、アメリカ経済の成長を支え、保護貿易政策の定着につながりました。

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、アメリカは徹底した保護貿易を維持し、世界最大の工業国へと成長しました。イギリスやドイツ、日本などの工業国からの輸入品には40~50%の高関税をかけ続け、国内産業を保護しました。
特に、鉄鋼産業(鉄道レール)、繊維産業(綿織物)、機械産業(トラクター) などは保護関税の恩恵を受け、アメリカのインフラ整備と工業化を急速に進めました。
「線路は続くよどこまでも(I've Been Working on the Railroad)」の歌とともに、大陸横断鉄道が開通し、アメリカ全土に鉄道網が拡大しました。ここで、大量の鉄道レールを供給したのがカーネギー製鉄であり、現在話題となっているUSスチールの前身です。

〇ナイロンを生んだ保護貿易

1920年代、アメリカ経済は繁栄し、自由貿易の動きが見られました。この時期、女性の絹製ストッキングが流行し、その原料として日本の生糸が大量に輸出されました。アメリカの絹製品の約8割が日本の生糸を使用していました。

しかし、1929年の世界恐慌後、アメリカは再び保護貿易を強化し、1930年にスムート・ホーリー関税法を制定しました。 これにより、関税率は最高**60%**に引き上げられ、日本の生糸も高級品となり、ストッキングの材料としてのコストが増加しました。

ここで、イノベーションが起こります。
1935年、アメリカの化学メーカーであるデュポン社の研究者ウォーレス・カロザースがナイロンを発明しました。ナイロンは、安価で耐久性があり、日本の絹に代わる画期的な素材として注目されました。
1939年のニューヨーク万国博覧会でナイロンストッキングが発表され、「絹より強く、鉄よりも丈夫」と宣伝されると、瞬く間に大流行しました。まもなく開催される大阪万博でも、このような新技術が登場すると良いですね。

その後、1937年に日中戦争が勃発し、1940年にはアメリカが対日経済制裁を強化、日本からの生糸輸入を制限しました。1941年には日米開戦(太平洋戦争)が決定的となり、日本からの生糸供給が途絶しました。 これがナイロン産業にとって大きな転機となりました。
ナイロンは戦時物資としての需要が高まり、パラシュート、ロープ、軍服 などに本格的に採用されました。
戦後、ナイロンは世界的に普及し、絹産業は大きく縮小しました。保護貿易が、繊維産業の構造を変革したのです。

〇廃棄コーヒーから生まれた「ネスカフェ」

保護貿易により、アメリカへの輸出が減少する産業にも、新たなチャンスが生まれました。
1920年代、ブラジルは世界最大のコーヒー生産国であり、輸出の大半をアメリカ向けとしていました。しかし、1929年の世界恐慌と保護貿易政策により、アメリカのコーヒー需要は急減しました。 その結果、コーヒー価格が暴落し、ブラジル経済に深刻な影響を与えました。
余剰コーヒーの処理に困ったブラジル政府は、コーヒーを焙煎せずに海に捨てるなどの対策を講じましたが、状況は改善しませんでした。

1930年代初頭、ブラジル政府は「余剰コーヒーを長期間保存し、簡単に消費できる方法を開発する」よう、スイスの食品メーカーネスレ社に依頼しました。
1938年、ネスレの科学者マックス・モルゲンタラーがフリーズドライ技術を用いて、「ネスカフェ」を開発しました。お湯を加えるだけで飲める画期的な製品、インスタントコーヒーの誕生です。

1939年、第二次世界大戦が勃発しました。 従来のドリップ式や焙煎豆の輸送・保存が難しかったため、インスタントコーヒーが軍需物資として注目されました。
1941年、アメリカが第二次世界大戦に参戦すると、ネスカフェはアメリカ軍の標準配給品となり、「戦場で素早く飲めるカフェイン補給源」として爆発的に普及しました。
1942年には、ネスレの生産量の約75%がアメリカ軍向けに供給されるまでに成長しました。

戦争を経験したアメリカ兵たちは、戦後もインスタントコーヒーを飲む習慣を維持し、コーヒー消費の大衆化が進みました。その結果、従来の焙煎・ドリップ文化に加え、インスタントコーヒーが世界標準の一つとなったのです。
私も高校生のころ、ネスカフェを飲んで眠気を覚まし、勉強したことを思い出します。

〇トランプ政策がディープシークを産んだ?

AI業界に衝撃を与えたディープシーク社の発表は、「ディープシークショック」と呼ばれ、エヌビディアをはじめとするAI関連株の下落を引き起こしました。
ディープシークは、アメリカによる中国制裁と技術封鎖の影響で生まれたものと言えます。経済・地政学的圧力の下での保護貿易政策は、ナイロンやネスカフェの例に見られるように、新たなイノベーションを生み出す可能性があります。
歴史の教訓から学ぶべきことは、技術革新は保護貿易で抑制されるものではなく、むしろ保護貿易下での国家間競争の中で加速するという点です。

ディープシークの技術については、まだ不確定な部分も多いため、現時点では断言できません。しかし、この技術は単なる新しい技術ではなく、AIチップ市場の競争環境を根本から変えうる革新的なものになる可能性があります。

ここで、少し技術的な話をいたします。
ディープシークの技術革新の中心となるのは、「量子AIアクセラレーション」と呼ばれる新しい計算手法です。従来の半導体技術では、AIの学習や推論を行う際に膨大な電力を消費し、高価なハードウェアが必要でした。しかし、ディープシークは量子技術を応用することで、計算速度を飛躍的に向上させると同時に、消費電力を大幅に削減することに成功しました。

現在、AIのトレーニングにおいては、GPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)が大量の演算能力を必要とします。ディープシークの新技術は、このプロセスを劇的に高速化するとされています。例えば、従来は数週間かかっていた大規模AIモデルの学習が、数日、あるいは数時間で完了すると報告されています。

また、AIデータセンターの消費電力は年々増加しており、持続可能な社会の実現に向けた課題の一つとなっています。しかし、ディープシークの技術は、消費電力を最大で70%削減できると試算されています。

これまで、AIの成功には大規模投資が鍵を握ると考えられていました。IT革命の時代には、IBMからマイクロソフトへと主役が交代しました。しかし、AI革命では、IT革命の主役であるGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)が圧倒的な資金力と市場支配力を活かし、そのままAI革命の主役になると予想されていました。
しかし、ディープシークの登場により、日本を含めた他の企業にもチャンスが生まれる可能性が出てきました。これは非常に喜ばしいことです。

〇ディープシーク創業者、梁文鋒(リャン・ウェンフォン)とは?

ディープシークの創業者である梁文鋒(リャン・ウェンフォン)氏は、1985年生まれの40歳です。中国広東省湛江市で生まれ、幼少期から数学の才能を発揮しました。中学生の頃には独学で微積分を学んだといわれています。その後、名門である浙江大学に進学しました。

梁氏は2013年に投資会社「ヤコビ」を設立し、2015年にはヘッジファンド「ハイフライヤー(High-Flyer)」を共同創業しました。このファンドは約80億ドルを運用し、中国で有数のクオンツ運用ファンドとなりました。
日本のベンチャー起業家とは異なり、投資会社からスタートしたという点が非常に興味深いです。ファイナンスの視点を持ち、戦略的思考に長けていることが伺えます。
梁氏は次のように語っています。
「米国では、日々大量のイノベーションがごく普通に生まれています。その中で、ディープシークV2はとりたてて特別な存在ではありません。しかし、彼らが驚いたのは、これが中国企業の手によって生まれたことです。これまで中国企業は追随する立場でしたが、今回はイノベーターとして競争の場に参入しました。」
日本でも、このような企業が誕生してほしいと願っています。

さらに、彼はこうも語っています。
「今、世界的なイノベーションの流れに乗ることが何よりも重要だと考えています。中国企業はこれまで、誰かが発明した革新技術を応用し、素早く商品化して利益を生み出すことを得意としていました。しかし、それだけが進むべき道ではありません。短期的な利益を追求するのではなく、テクノロジーの最前線に立ち、エコシステム全体の成長を推進することが大切です。」
これは、まさにAI革命のパラダイムシフトに乗るべきだという宣言とも言えます。

1985年生まれの40歳の起業家が、このようなビジョンを持ち、世界の技術競争をリードしていることに感銘を受けます。
日本の経営者にも、大いに期待したいと思います。

トランプ大統領の「成功のための11のステップ」  2025.1.30

 世界の政財界のトップが集まる2025年のダボス会議では、1月20日に正式に就任したばかりのトランプ大統領とAIが主役となりました。
誰もが「トランプ氏は予測不能だ」と言います。しかし、私はトランプ氏が予測不能であるのは、「予測不能に見えるように行動しているからだ」と考えています。

トランプ氏は、不動産王として成功する以前、今から38年前に『The Art of the Deal』というベストセラーを執筆し、「ビジネス成功のための11のステップ」を明らかにしました。この中に、トランプ氏の発想の原点があるといえるでしょう。
今回の「手紙」では、この11のステップを紹介いたします。是非ともご参考にしていただければと思います。

〇2025年ダボス会議

トランプ新大統領は、23日のダボス会議にオンラインで会議に参加し、「アメリカで製品を製造しないのであれば、それは自由だが、その場合、これまでとは異なる額の関税を支払う必要がある」と述べ、関税を課す方針を明確に示しました。また、「アメリカを世界の主要国の中で最も税率が低い国にする。連邦法人税は15%を目指す」と語りました。法人税15%とは羨ましいですね(笑)

さらに、「ソフトバンクはオラクルやOpenAIとともに5000億ドル(約50兆円)をスターゲートとして投資する」と述べ、ソフトバンクに関する話題にも触れた点は注目に値します。
 また、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻について、「ロシアとウクライナの平和的解決に向けたわれわれの努力が進むことを期待している。戦場は殺りくの場となっている。終わらせる時だ」と強調しました。この発言は、おそらくプーチン大統領との会談を経て、何らかの大きな進展があることを示唆しているように思われます。

私としては、ウクライナ問題が解決し、ヨーロッパまでの飛行時間が14時間から以前のように12時間に短縮されたら、来年にもイタリアに行きたいなと思っております(笑)。

ダボス会議の出席者の反応は、「今年の世界はそれほど悪くならない」というもので、これは私が「嶋聡からの手紙」でこれまで述べてきた内容と一致する見解でした。
一方で、AIはすでに電気やインターネットと同じようにインフラとして定着しており、今後はAIを活用する人と活用しない人との間に「デジタル格差」ならぬ「AI格差」が生じると指摘されました。今年の私の講演では、この「AI格差」に陥らないための方策について警鐘を鳴らしていきたいと考えています。

〇トランプ大統領の『The Art of the Deal』:その哲学と教訓

トランプ大統領が1987年に出版した著書『The Art of the Deal』が、改めてアメリカ、ウォール街、シリコンバレーで注目されています。この本は、不動産王トランプ氏のビジネス哲学を示すバイブル的な一冊としてベストセラーになりました。彼が提唱する「ビジネス成功のための11のステップ」は、彼自身のビジネス経験に基づく具体的で実践的なガイドラインです。

私も90年代からこの本を将来有望な事業家に紹介してきましたが、多くの方が「参考になった」とおっしゃっていました。改めて、今回のテーマとして取り上げたいと思います。また、「11のステップ」は、1期目のトランプ大統領時代の政策や交渉術にも応用されていました。これを理解することで、トランプ氏の行動や交渉への対応、「トリセツ」が見えてくるはずです。

〇トランプ氏の「成功のための11のステップ」

1. 大きく考えろ(Think Big)

トランプ氏は「私は物事を大きく考えるのが好きだ。どうせ考えるなら大きく考えたほうがよい。たいていの人は控えめに考える。それは勝つことを恐れるからだ。これは私のような人間には、まことに都合がいい」と述べています。成功の第一歩は、「大きな目標」を掲げることだと彼は説きます。挑戦するならば大胆なビジョンを持つべきであり、他者との差別化には大きなスケールが必要だとしています。

例えば、トランプ・タワーの建設では単なるオフィスビルではなく、ニューヨークのランドマークとなる高級住宅と商業施設を融合した空間を目指しました。このような「大きく考える」姿勢が成功の基盤となったのです。「ビッグピクチャーを持て。人生はその大きさに比例する」という教訓が込められています。孫正義氏の発想と極めて似ています。

2. 最悪の状況を想定せよ(Protect the Downside and the Upside Will Take Care of Itself)

トランプ氏は「私はギャンブルが好きだと思われているが、私はばくちを打ったことは一度もない。常に最悪を予想して取引に臨む」と述べています。どれほど大胆な計画を立てても、リスク管理が不十分では成功はありません。常に最悪の事態を想定し、損失を最小限に抑える準備を整えるべきだと説きます。

例えば、彼はニューヨークでホテル事業を始める際、経済不況によるリスクを念頭に置き、リスク分散型の契約を交渉しました。この慎重さが、彼の大胆な行動を支えています。「最悪に備え、大胆に行動せよ」という哲学です。これも孫正義氏とそっくりです。

3. 選択肢を最大限に広げよ(Maximize Your Options)

トランプ氏は「私は融通性を持つことでリスクを少なくする。一つの取引やアプローチにあまり固執せず、いくつかの取引を可能性として検討する」と述べています。選択肢が多いほど、交渉や戦略で優位に立てます。

例えば、彼はカジノ開発の際、複数の投資家との交渉を並行して行い、最も有利な条件を引き出しました。トランプ氏の外交政策にもこの「融通性」は反映されています。驚くことに、これも孫正義氏も同じ発想をします。

4. 自分の市場を知れ(Know Your Market)

「市場に対するカンの働く人と働かない人がいる」とトランプ氏は述べます。彼は、自らの経験や直感に基づき、競合や顧客ニーズを的確に把握してきました。ニューヨークの不動産市場では、高級住宅の需要が高まることを見越し、プロジェクトを展開しました。

彼はまた、「外部のコンサルタントに依頼すると時間がかかり、有利な取引を逃す」とも指摘しています。経験に裏打ちされたカンと市場分析が、彼の成功を支える重要な要素でした。

5. レバレッジを使え(Use Your Leverage)

トランプ氏は「取引で禁物なのは、何が何でもこれを成功させたいというそぶりを見せることだ。一番望ましいのは、優位になって取引することだ」と述べています。交渉で成功するためには、自分の持つ「てこ(レバレッジ)」を最大限に活用することが重要です。

例えば、ホテル用地を購入する際には、地元政府との交渉で自分の計画の価値を強調し、税制優遇措置を引き出しました。このように、相手にとっても利益となる要素を提示しながら、目標を達成する手法を用いています。日本や中国との交渉でも、このレバレッジを活用するスタイルは変わらないでしょう。

6. 良い条件を引き出せ(Enhance Your Location)

「不動産に関する大きな誤解は、成功の鍵は一にも二にも立地条件にあるという考えだ。必要なのは第一級の取引だ。宣伝と人間心理の応用により、場所のイメージを高めることができる」とトランプ氏は述べています。

立地は不動産において非常に重要な要素ですが、トランプ氏は単に良い場所を選ぶだけではなく、その場所の価値を最大限に引き出すことを重視しました。例えば、トランプ・タワーの立地戦略では、高級ブランド店舗を誘致し、建物全体を超高級的なものとして位置づけることで、その魅力を大いに高めることに成功しました。

7. 自分を宣伝し、情報発信せよ(Get the Word Out)

「マスコミに書かれることは、マイナス面よりプラス面のほうがずっと多い。宣伝の最後の仕上げははったりである。人々の夢をかき立てるのだ。人は自分では大きく考えないかもしれないが、大きく考える人を見ると興奮する。だから、ある程度の誇張は望ましい」とトランプ氏は語っています。

トランプ氏は、積極的に自らのプロジェクトを広報し、注目を集めることの重要性を強調しています。メディアを巧みに活用し、「トランプ」という名前をブランドとして世間に広く認知させることで、ビジネスの価値を大幅に高めました。日本の若い経営者は、自分を宣伝することが苦手だと感じる人が多いですが、ここはトランプ氏のやり方を学ぶべき点ではないでしょうか。これも、孫正義氏と似ていることは言うまでもないでしょう。

8. 逆境に立ち向かい、断固戦え(Fight Back)

「私は決して気難しい人間ではない。良くしてくれた人にはこちらも良くする。けれども、不公平な取り扱いや不正な処遇を受けたり、不当に利用されそうになった時には断固戦うというのが私の信条だ」とトランプ氏は述べています。

彼は、逆境や困難に直面したときこそ積極的に行動を起こし、失地回復を図るべきだと考えています。ビジネスにおいて不利な状況に追い込まれても、決して諦めず、戦略を見直しながら反撃のチャンスを掴んできました。成功の要諦は、「成功するまで続けること」だと言えるでしょう。

9. 結果を出せ(Deliver the Goods)

「世間をだますことはできない。少なくとも長くは無理だ。期待感をあおり、マスコミに取り上げられ、ひと騒ぎすることはできる。しかし、実際にそれだけのものを実行しなければ、やがてそっぽを向かれてしまう」とトランプ氏は語っています。

信頼を築くためには、約束を果たし、期待以上の結果を提供することが重要だと彼は強調しています。単に契約内容を守るだけでなく、顧客や投資家に確実な成果を示すことで、強い信頼関係を築いてきました。おそらく、大統領としても、公約を断固として実現しようとする姿勢が見られるでしょう。

10. コストを抑えよ(Contain the Costs)

「私は必要なことには金を出すが、必要以上には出さない主義だ。チリも積もれば山となるから、1セントも粗末にしてはいけないことを父から学んだ」とトランプ氏は語ります。
トランプ氏は、プロジェクトのコスト管理を徹底することで利益を最大化することの重要性を説いています。無駄な支出を抑えつつ、戦略的にリソースを投入することで、効率的かつ効果的な結果を生み出すことが可能です。

11. 仕事を楽しめ(Have Fun)
「私は自分が成し遂げたことにあまり執着しないことにしている。魅力はゲームをすること自体にあるのだ。ただ、それをやっている間楽しかったと答えるしかない」とトランプ氏は述べています。
トランプ大統領は人生を楽しむことをモットーとしています。石破総理は所信表明演説で「楽しい国日本」実現を挙げました。
安倍元総理は、1期目のトランプ大統領とゴルフを共にし、昼食はチーズバーガーを一緒に食べるなど、楽しみながら交流を深めていました。一方、石破総理はどことなく生真面目な印象があります。ここは安倍元総理流を参考にして、楽しみながら会談に臨むのも良いかもしれません。「楽しい国」を目指しているのですから。

トランプ2.0は「黄金の2020年代」になるか?  2025.1.14

 いよいよ1月20日にトランプ氏が第47代大統領として就任します。トランプ2.0と言われるように、これが2期目となるため、アメリカ合衆国憲法修正第22条に基づき、今回の任期が最後となります。2期目ということで、1期目よりも賢明で安定的な運営をする可能性もありますが、同時に最後の任期となることから選挙を考慮せず、思い切った政策を断行することも考えられます。
 「アメリカのビジネス(仕事)はビジネスである」という思想が支配する4年間が始まります。

〇トランプ対策、孫氏から石破総理へのアドバイス

1月7日には、石破総理と孫正義氏との2時間半にわたる会食が行われました。この会食は、孫氏と高校一年から親交の深い岩屋毅外務大臣が仲介したと考えられます。孫氏は「岩屋さんとは同じ九州出身で、若い時から『お前は政治で天下を取れ、俺は経営で頑張る』と言い合っていました」と私に話していました。私もソフトバンク時代に会食など同席したのですが「孫」「岩屋」とお互い呼び捨てにする仲でした。

孫氏は会食について、「『日米関係が大事なので、いろいろ教えてほしい』ということで、率直な話をしました。新しい政権が経済についてどのような考えを持っているかを聞かれたので、自分なりの印象をお伝えしました」と取材に答えています。会食では、バイデン大統領が日本製鉄によるUSスチール買収計画に禁止命令を出したことも話題に上がったといいます。おそらく孫氏は、2012年10月にアメリカ第3位の携帯電話会社スプリントを買収した経験を踏まえた的確なアドバイスを行い、同時にトランプ氏にも働きかけたのではないでしょうか。

〇USスチール買収は前進する??

スプリント買収当時、私も月に一度はワシントンを訪れ、外国投資委員会(CFIUS)の審査や通信規制当局の承認を得るために働きかけました。私は晴れ男で、ワシントンでお願いしていたドライバーから「明日から嶋さんが来るのでしばらく晴れますね。洗車しておきました」とよく言われていました。一方で孫氏は雨男だったようです。多くの紆余曲折を経ましたが、最終的に2013年7月に承認を得て、取引総額約201億ドルの買収が完了しました。当時としては日本企業による最大規模の海外投資案件でした。

一方で、日本製鉄が大統領選挙の年に、政治的影響力の大きいアメリカ鉄鋼業界で150億ドル(約2兆3600億円)規模の買収を目指したことについて、「政治的にナイーブだった」との意見もあります。しかし、私はそうは思いません。大統領選が区切りとなり、終了後、事態が急展開する可能性があるからです。
大統領選までは労働組合の票を考慮し、大統領候補が慎重になるのは当然です。実際、ソフトバンクがスプリント買収を発表した2012年10月15日は、大統領選挙の1カ月前であり、共和党のミット・ロムニー氏と民主党のバラク・オバマ氏が激しい選挙戦を繰り広げていた最中でした。規制当局の対応も厳しいものでした。

大統領選は一つの区切りとなります。結果として、オバマ大統領が再選を果たした後、孫氏が直接オバマ大統領と面会するなどの努力を重ね、2013年7月に承認を得たのです。

今回、岩屋外務大臣が1月20日のトランプ大統領就任式に出席します。アメリカ大統領の就任式には通常、各国の駐米大使が出席するのが慣例で、外国の閣僚や首脳が招待されるのは極めて異例です。多くの報道機関が「外国の閣僚の出席はアメリカ憲政史上初めて」と伝えています。おそらく、孫氏がトランプ氏に岩屋氏を「私の若い時からの友人です」と推薦した可能性もあるのではないでしょうか。

外務大臣が直接出席することで、トランプ政権との信頼関係を早期に構築し、今後の日米間の外交交渉や政策協調を円滑に進める基盤を築く意図があると考えられます。このような取り組みは、日本外交にとってプラスとなり、直面するUSスチール買収問題を前進させる一歩にもなるでしょう。日本製鉄のUSスチール買収は2月に予定される石破総理の訪米で大きく前進すると予想します。

〇トランプ政権誕生でアメリカ株は?

トランプ氏の大統領就任は、イーロン・マスクのトランプ政権参加にみられるように、停滞した政治の世界がテクノロジーを中心とする活気あふれる民間セクターに乗っ取られるような現象と考えることができるでしょう。

アルファベット、アマゾン、アップル、メタ、マイクロソフト、エヌビディア、テスラは、日本映画「七人の侍」をモデルにした映画のタイトルになぞらえて「マグニフィセント7」と呼ばれています。この「七人の侍」とも言える企業群の快進撃は、アメリカの民間セクターの活力や、デジタルテクノロジーを牽引するシリコンバレーのリーダーシップ、さらにはAIへの投資家の熱狂を反映しています。これらの要因は、トランプ政権の誕生によって2025年はしっかりと持続する可能性が高いです。

特に今年は「AIエージェント」が注目を集める年となるでしょう。AIエージェントとは、特定のタスクや問題を自律的に解決するソフトウェアやシステムのことです。この技術は、大手テック企業、AIスタートアップ、さらには多くの企業によって開発が進められており、2025年には最も注目されるフレーズのひとつとなると予想されます。

AIエージェントは、ユーザーのスマートフォンやウェブブラウザに常駐するソフトウェアであり、オンラインフォームの入力、食料品の買い物リストの作成、メールの送信、通話の文字起こしなど、幅広いデジタルタスクをユーザーに代わって完了させることが可能です。グーグル、オープンAI、アンソロピック、マイクロソフトなどのアメリカ各社は、2025年に新たなサービスを次々と提供する予定です。

しかしながら、3つの大きな要因が「マグニフィセント7」のさらなる躍進を抑える可能性もあります。
1つ目は、膨大な設備投資が収益性を損なうリスクです。
2つ目は、AIを巡る投資家の熱狂が過熱しているため、やがて失望感が生じることが避けられないことです。
3つ目は、これらの企業のバリュエーション(投資尺度)が著しく上昇した結果、一部の投資家が小規模なテクノロジー企業など、代わりの投資先を探し始めていることです。

結論として、「マグニフィセント7」が転落することは考えにくいですが、これまでのように急激に成長し続けることも難しいでしょう。マグニフィセント7に続く新しい企業を探す時期かもしれません。

〇トランプ氏の政策は1920年代に似ている

 トランプ氏の政策は、「アメリカのビジネスはビジネスである」といった1920年代の第29代ウォーレン・G・ハーディング大統領の政策に似ていると言えます。ハーディング政権は、第一次世界大戦後の混乱からアメリカ社会を安定させるため、「正常への復帰(Return to Normalcy)」というスローガンを掲げました。このスローガンの下で進められた政策は、現在のトランプ氏の政策と多くの共通点を持っています。

まず、ハーディング大統領は保護主義的経済政策を採用しました。その代表例が、1922年に制定されたフォードニー=マッカンバー関税法です。この法律により、外国製品に高い関税が課され、国内産業が保護されました。同様に、トランプ政権もアメリカ製品を保護するため、中国や他国からの輸入品に対して高関税政策を導入しようとしています。
この政策は、特に中国からの輸入品に大きな打撃を与えるでしょう。中国はアメリカの輸入総額の約15%を占める国であり、トランプ政権のターゲットとなっています。
アメリカの対中貿易赤字は、2023年のデータによれば、輸出が約1,478億ドル、輸入が約4,272億ドルであり、差し引き約2,794億ドルの赤字となっています。同年のアメリカ全体の貿易赤字は約9,480億ドルであり、対中赤字はその約29.5%を占めています。
さらに、トランプ大統領がターゲットにしているのはメキシコとカナダで中国の輸入額を合わせると、アメリカの輸入総額の約30%に達します。メキシコのシェインバウム大統領やカナダのトルドー首相(または次の首相)は、トランプ氏がちらつかせる25%の関税導入を防ぐために、移民問題に真剣に取り組まざるをえないでしょう。

次に、ハーディング政権は規制緩和を進め、企業活動を促進しました。この姿勢はトランプ政権にも受け継がれています。トランプ政権下では、特にイーロン・マスク氏が進める自動運転技術や宇宙開発など、多くの分野で規制が撤廃される見込みです。これにより、企業が自由に活動できる環境が整えられ、アメリカのイノベーションがさらに加速することが期待されます。この「ビジネス優先」の姿勢は、両政権における明確な共通点の一つです。

また、減税と財政保守主義もハーディング政権の重要な柱でした。ハーディングは政府の歳出を抑制すると同時に、企業や個人に対する税負担を軽減しました。トランプ政権も、2017年に税制改革を実施し、法人税を大幅に減税しました。この政策は、企業の投資を刺激し、経済活動を活性化させることを目的としています。
何にしても「減税」「小さな政府」をめざすことは善いことで、イーロン・マスクが政府効率化省を率いて行政改革を進めることに日本政府も見習ってほしいと思います。

〇1920年代に学ぶ教訓と「繁栄の2020年代」への期待

一方で、ハーディング政権の政策には課題もありました。特に、石油利権を巡る汚職事件「ティーポット・ドーム事件」は政権のイメージに大きなダメージを与えました。また、1923年にハーディング大統領は任期途中で心臓発作により急逝しました。その後、カルビン・クーリッジ副大統領が大統領職を引き継ぎ、ハーディング政権の経済政策を継続しました。
トランプ氏も高齢であることから、健康面におけるリスクがゼロとは言えません。イーロン・マスクが次期大統領を目指して、政権参加しているのではないかとすら私には思えます(笑)。

ハーディングの任期は短命でしたが、その保護主義的経済政策やビジネス優先の姿勢は、1920年代の「繁栄の時代」を支える基盤を築きました。同様に、トランプ政権の政策は短期的には「繁栄の2020年代」を作り上げる可能性が高いと言えます。

ただし、歴史を振り返ると、繁栄の1920年代の後には大恐慌が続き、さらに第二次世界大戦へとつながったことを忘れてはなりません。短期的な繁栄だけでなく、長期的な安定を見据えた政策が求められる時代であると言えるでしょう。日本も忌憚なく日中関係、日米安全保障関係の在り方などアメリカにものを申すべきです。
 今、アメリカの実業界はアニマル・スピリッツが全開の状況です。日本企業もこの「勢い」に乗る時です。日本にとって「復活の2020年代」になることを願っております。   

「講演450回! 500回を目指します」  2024.12.12

 「一年の計は穀を植えるに如くはなし。十年の計は木を植えるに如くはなし。百年の計は人を植えるに如くはなし」(菅子)と申します。私は、松下幸之助氏と孫正義氏から学んだ経営の要諦を伝え経営に役立ててもらうこと、何よりも日本経済復興を担う人材を育てることを目的として2017年から講演活動を開始しました。
今年で8年となり、12月11日に東京大学で行われた中国・清華大学EMBAの講演が通算450回目となりました。東京大学の銀杏並木は、夏が長かった影響か、いまだに美しい黄金色を保っていました。その風景の中で多くの人々が記念写真を撮影していました。

これまで北は札幌・旭川、南は九州宮崎や沖縄・那覇まで、全国で講演しました。講演させていただいていない県庁所在地は鹿児島、佐賀、鳥取ぐらいと思います。
商工会議所や銀行主催の講演を聞いていただいた社長から、ご自分の会社の講演会にお招きいただき個人的な交流が始まったりしました。新年早々の京都や立山連峰が美しい富山に行ったことも心に残っています。若き日の友人が市長や地域のリーダーとなって会場を訪ねてくれたことも心に残る思い出です。
海外ではシンガポール、韓国(ソウル)、中国(北京、上海、成都、深セン、鄭州など)でも講演を行い、何度か、現地のテレビ局の取材を受けたりしました。海外の講演は、会場も大きいので、演出が派手で、登場の際、煙が出たりして、まるでコンサートのようだと驚いたこともありました(笑)

年間平均で約56回、ほぼ週1回のペースで講演を続けてきました。コロナ禍で減少した時期もありましたが、ピーク時には年間100回以上行ったこともあります。来年は通算500回を目指して、さらに精進してまいります。

〇「壮にして学ぶ」中国のEMBA

幕末の西郷隆盛にも多大な影響を与えた佐藤一斎の『言志録』には、次のような言葉があります。
「少にして学べば、則ち壮にして為すことあり。壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず」
特に「壮にして学べば、則ち老いて衰えず」(壮年期に学ぶことで、老年になっても気力が衰えない)という部分が、近年ますます重要に感じられます。
450回目の講演となった清華大学は、イギリスの高等教育専門誌『Times Higher Education』が発表するランキングで、2024年版では世界第12位にランクインしています。ちなみに、第1位はオックスフォード大学、第2位はスタンフォード大学、第3位はMIT。日本の大学を見ると、東京大学は29位、京都大学は55位、名古屋大学は201位から250位の間という位置付けです。

この清華大学EMBAプログラムは、ある程度成功を収めた30代から50代の経営者がさらに学びを深める場です。理論的知識だけでなく、実践的スキルや広範なネットワークを提供し、受講者のキャリア発展に寄与しています。「壮にして学ぶ」を体現する場といえるでしょう。日本でいえば、上場企業の経営者やいわゆる「ヒルズ族」のような人々が、経営戦略やグローバルな視点を再構築する場と考えられます。
著名な卒業生にはアリババ創業者のジャック・マー氏が挙げられます。同氏は清華大学EMBAを修了し、卒業式でスピーチも行っています。

〇活発な議論とスケールの大きさ

清華大学EMBAの講義は2時間です。1時間半は講義、その後30分間の質疑応答が行われます。この質疑応答が非常に活発で、予定時間を超えることもしばしば。日本との違いを実感させられる場面です。
例えば、30代と思われる女性経営者から、「日本のHゴルフを買い、中国で生産したゴルフクラブを日本で販売しようと考えているが、何に注意すればよいか」という質問を受けました。当初、ゴルフクラブのデザインを模倣して販売する話かと思ったのですが、実はゴルフクラブではなく、会社自体をM&Aで買収したとのことで、そのスケールに驚かされました。

〇1400万円から1500万円の学費

私は上海に拠点を置く中欧国際工商学院(CEIBS)のEMBAコースでも講義を行っています。この学院は2024年の『フィナンシャル・タイムズ』EMBAランキングで世界第1位に輝く、まさにトップクラスの教育機関です。

春の講義では、地方でホテル経営を行っているという受講者から質問を受けました。当初、地方都市の駅前にある小規模なホテルかと思いきや、実際には中国全土で200のホテルを展開するチェーン経営者で、そのチェーンを世界展開するための助言を求められました。その規模の大きさに圧倒されました。

中欧国際工商学院の2025年度EMBAプログラムの学費は828,000元(約1,400万円)、清華大学経済管理学院(SEM)は100,000米ドル(約1,500万円)と、高額な投資を必要とします。しかし、この投資は経営者や管理職にとって、スキル向上やネットワーキングの貴重な機会を提供し、キャリアを飛躍的に向上させる価値があると評価されています。完全な自分への投資なのです。
私は日本の若き経営者にも、こうした世界標準、グローバルスタンダードの教育機会があれば、さらなる飛躍が期待できると感じています。

〇日本の20代・30代への講演

11月末、名古屋で開催されたD通総研主催の講演会に登壇しました。講演の際、私は事前に聴衆の属性を把握し、それに応じた内容を組み立てることを心がけています。普段は50代・60代の経営者層が主な対象ですが、今回は20代・30代の方々と聞いて、どんな話をすべきか悩みながら会場に向かいました。

会場に到着すると、確かに若々しい雰囲気が漂っていました。聴衆は主にトヨタグループなど東海地区の有名企業に勤める若手社員で、普段は経営企画などのエリート部門で連結決算業務などを担当されている方々とのこと。冒頭で「1990年以降に生まれた方は?」と問いかけると、ほとんどの方が手を挙げました。私がいつも最初に触れる松下幸之助氏は1989年、平成元年にお亡くなりになっているので、生まれる前の人です。「松下幸之助というパナソニックの創業者をご存じですか?」と尋ねたところ、幸いにも皆さん知っておられました(笑)。

私は続けて、世界時価総額の変遷について話しました。
「現在、世界時価総額1位はエヌビディア。アメリカのアップルとマイクロソフトが三つ巴でその座を競っています。1989年を振り返ると当時の世界1位は日本のNTT、続いて日本興業銀行、住友銀行と、トップ10のうち7社が日本企業でした。50社中32社が日本勢という時代です。しかし現在、50位以内に残っているのはトヨタ1社のみで、30位前後にとどまっています。」

20代・30代の皆さんが生まれた頃、日本はピークの時代でした。「ジャパン・アズ・ナンバー1」がベストセラーになり、アメリカを抜くのではないかとさえ言われていたのです。日本はその後、「失われた30年」の停滞・衰亡の時代に入ります。彼らが日本の将来を楽観できないのは無理もないはず。それでも、彼らは講演中熱心で明るく反応してくださり、私自身とても励まされました。

〇2050年、日本はインドネシアに抜かれる

トランプ大統領が財務長官に投資家のスコット・ベッセント氏を指名したことをご存じでしょうか。ベッセント氏はジョージ・ソロス氏のソロス・ファンドで最高投資責任者を務めた経歴を持ちます。アメリカではこうしたポリティカル・アポインティが一般的ですが、日本ではなかなか想像しがたいことです。

アメリカのゴールドマン・サックスは、「ガバメント・サックス」と揶揄されるほど政界と密接で、直近5代の大統領のうち3代の財務長官を輩出しています。そのゴールドマン・サックスが2050年の世界GDPランキングを予測しています。1位は中国、2位はインド、3位にアメリカ、4位インドネシア、5位ドイツ、そして6位に日本が位置付けられています。

「2050年には皆さんが40歳から60歳の頃です。今年、日本はドイツに抜かれ4位となり、来年にはインドに抜かれるでしょう。ドイツは仕方がない。インドは人口が多いから仕方がない。でも、インドネシアに抜かれることには少し抵抗感があるかもしれませんね?」と問いかけると、共感する表情が多く見られました。

さらに、「日本がインドに抜かれるのはいつだと思いますか?」と来年、10年後、15年後の三択で尋ねました。結果、多くの方が「10年後」を選びましたが、正解は「来年、2025年」です。IMFの予測によれば、1ドル=140円という前提で、来年の逆転は確実です。

〇私は「リンゴの木を植える」

ギボンのローマ帝国衰亡史、十八史略。資治通鑑、トインビーの歴史の研究。国家の興亡について研究を続ける中、歴史は必ずしも一直線で進むものではないことがわかりました。経済が停滞しても、人間は時に知恵を絞り、復活の機会を見いだします。
日本もそうあってほしいと思いますし、20代、30代の皆さんに日本復活に挑戦してもらいたいと思います。
宗教改革のルターはこう言いました。「たとえ明日、世界が終わるとしても、今日私はリンゴの木を植える。」私もこの言葉を胸に刻み、来年は通算500回の講演を目指して取り組むつもりです。日本が若き力で再び復活することの希望を持ち続けたいと思います。

大谷翔平とエヌヴィディア 2024.11.26

偉大な記録を打ち立てたドジャースの大谷翔平選手が、2年連続3度目のMVPを満票で受賞しました。
大谷選手が18歳の時に書いた「人生設計シート」が広く知られています。このシートでは、高校卒業後メジャー入団、3Aを経て20歳でメジャー昇格とあります。実際は、ドラフトでファイターズが指名。栗山監督の下、二刀流で活躍。5年後、23歳でロサンゼルス・エンゼルス入りしました。その後、WBC日本代表、結婚(26歳予定が29歳)、そしてワールドシリーズ制覇などが記されており、時期に多少のズレはあるものの次々と実現させています。
何よりも、18歳、東北、花巻東高校の高校生が日本を超えてメジャー、さらには世界で活躍するという高い目標を掲げたことに驚きます。志が高いですね。

松下幸之助氏はよく「棒ほど願って針ほどかなう」と語りました。棒ほどに大きな願いを抱いてこそ、針ほどの成果が実現するという意味です。志を高く持ち、大きな夢を描くことが大切です。経営においても、「大風呂敷」と思われるようなビッグピクチャーを描くことが重要だと考えます。

〇AI革命のパラダイムシフトに乗り、30年で世界一

10月25日、エヌビディアの時価総額がアップルを抜き、再び世界一となりました。時価総額は3兆5300億ドル=約537兆円です。日本一国のGDPが約4.2兆ドルであることを考えると、その規模の大きさに驚かされます。大谷翔平は1994年生まれの30歳ですが、エヌビディアは同じ頃の1993年に創業し、わずか31年で世界一に到達しました。
急成長の成功要因は、「パラダイムシフト」に乗ったことです。エヌビディアは、AI革命という大きなパラダイムシフトを捉えた企業の代表例と言えるでしょう。

AI革命とは、コンピュータに“考える力”を与えるという構造的な変革を指します。エヌビディアの創業者であるジェンスン・ファン氏は、その“考える力”を実現するためのエンジン、すなわちGPUを開発しました。AIが何かを学び、私たちに役立つ答えを提示するには、膨大な計算が必要です。その計算を超高速で処理するGPUがなければ、AIはただの夢物語に終わっていたでしょう。

エヌビディアがAI革命において不可欠な存在となったことこそが、時価総額世界一を達成した最大の理由です。

〇ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、孫正義?

エヌビディアのジェンスン・ファンCEOと孫正義氏の対談が11月13日に都内で行われました。この対談は、AI革命の将来を示唆する非常に興味深い内容でした。
孫正義氏は、「ビル・ゲイツがすべてのデスクトップにPC(パソコン)を、スティーブ・ジョブズがすべての手にスマートフォンを届けたように、我々はすべての人にAIエージェントを届けたい」と述べました。

IT革命は、世界中に“デジタルの道路”を敷くことによって通信料金を限りなく無料に近づけました。マイクロソフトのビル・ゲイツは、その道路を走る“車”(WindowsやOffice)を開発し、生活と仕事を一気にグローバル化しました。その結果、マイクロソフトは時価総額で世界一となりました。

一方、スマホ革命では、スティーブ・ジョブズがiPhoneを通じて“ポケットの中に宇宙を入れる”ようなライフスタイルの変革をもたらしました。手のひらでインターネット、音楽、カメラ、通信販売、タクシー手配といったあらゆる機能を使えるようになり、アップルもまた時価総額で世界一を達成しました。

AI革命はまだ始まったばかりですが、ライフスタイルやビジネススタイルを大きく変える可能性を秘めています。専門職である医者や弁護士の業務、作曲家やシナリオライターなどの仕事がAIに取って代わられる時代が来るかもしれません。これにより、専門知識やコンテンツが限りなく無料に近づきます。教育はほとんど無料になるでしょう。

孫氏のいう「AIエージェント」とは、「自分の人生に寄り添い、旅行の計画などをしてくれる存在」とのことです。一方、ジェンスン・ファン氏は「自分が読んだすべてを知っている家庭教師のような存在」と応じています。私たちにとっては「ドラえもん」のような存在が現実化することを想像させます。
孫正義氏率いるソフトバンクグループの時価総額は10兆円ほどですが、それでもアップルやマイクロソフトと肩を並べて語る姿は、大風呂敷と捉えられるかもしれません。しかし、その「心意気やよし」と私は感じます。「棒ほど願って針ほどかなう」という言葉の通りです。

〇エヌビディアの台頭と日本の現状

エヌビディアが創業された1993年頃、日本もまだ元気でした。当時の世界時価総額ランキングでは、1位エクソンモービル、2位ウォルマート、3位GEという時代で、日本企業も多くランクインしていました。4位にNTT、13位にトヨタ、9位に三菱銀行、11位日本興業銀行、15位富士銀行、16位第一勧銀、17位三和銀行が名を連ねていました。
しかし、2024年現在、50位以内に入る日本企業は30位台のトヨタ1社のみです。

現在、日本の「メガベンチャー」と言われる企業も、実は1990年代に創業されたものが多いです。楽天が1997年、サイバーエージェントが1998年、MIXIが1999年といった具合です。これらの企業はそれなりの規模には成長したものの、日本国内にとどまり、21世紀以降は成長が鈍化しています。

それ以降の新興企業はさらに低調で、日本はユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の未上場企業)が少なく、「ピュニコーン(punycorn)」が増殖していると揶揄されることもあります。ピュニコーンとは広い牧草地でのんびりしている、くんくんと鳴くユニコーンに似たちっぽけな動物という意味です。

私もソフトバンクを卒業して8年になります。その中で、日本のそれなりに成功した若い経営者たちとの交流を深めてきました。そこで気づいたのは、日本経済が停滞しているために、新興企業が少し革新的に見えただけでIPO(新規株式公開)を果たすことができてしまい、その時点で旅を終えてしまうことです。

日本経済は、創業初期の大きな成長を支える環境は維持しています。しかし、デフレ時代を生き延びた創業者たちは目標が高くなく、10億ドル規模のビリオネアではなく、100万ドル規模のミリオネアになることで満足してしまうことが多いのです。
企業の旅はIPOを終えた後に本格的に始まるべきですが、残念ながら日本ではその旅がIPOで終わってしまう傾向が強いのです。

〇日本復活のためにAI革命に乗れ

ファン氏は、「日本はこれまで(機械工学と電子工学を組み合わせた)メカトロニクスで世界をけん引してきたが、この30年間ソフトの時代には西洋や中国が台頭した。日本はもっと積極的であればよかった」と、日本の「失われた30年」を総括しました。また、「(AI革命で)あらゆる産業はリセットされる。全く新しい機会が生まれる。日本はこのチャンスを生かさなければならない。AIモデルを成長させるにはデータとインフラが必要だが、日本にはそれを支える専門知識を持つ人材がいる」と、日本復活の戦略も示しました。

AI革命は、日本が再び世界の舞台で輝くための最後のチャンスかもしれません。大谷翔平選手が大きな夢を抱き、それを実現して世界で活躍している姿は、日本の経営者やビジネスマンにも大きな示唆を与えてくれるはずです。AI革命に取り組むにあたり、再び大きな夢を描き、奮起していただきたいと思います。
合言葉は「棒ほど願って針ほどかなう」です。

「またトラ」は日本にとって悪くない  2024.11.13

 「Make America Great Again(アメリカ合衆国を再び偉大な国に)」を掲げたトランプ氏が、ハリス氏に対し選挙人票で312対226という大差で勝利しました。日本の報道では「接戦」と伝えられていましたが、結果はトランプ氏の「圧勝」でした。この結果は、日本の報道機関や外務省などの政府機関の情報収集力が不十分であることを示していると言えます。

全米の総得票数は、トランプ氏が7,464万4,300票、ハリス氏が7,091万573票でした。共和党候補が総得票数で民主党候補を上回るのは20年ぶりのことです。
7月下旬の「大暑」のメルマガで、私は「運の良い者が一番偉い」と述べ、トランプ氏の勝利を予測しました。その後、ハリス氏が猛追しましたが、私の予測は揺るぎませんでした。
周囲の人からの評価によると、私の「参謀」としての予測は「すべてが当たるわけではないが、8割は当たる」というものです。今回はその8割に入ったようです(笑)

〇 イーロン・マスクが政権入り、「政府効率化省」を率いる

選挙終盤で、テスラのイーロン・マスクがリスクをとってトランプ氏を支持したことが、私にトランプ勝利を確信させました。私は、世界で最も信頼性の高い情報を持つのは政治家ではなく、世界をリードする企業のCEOだと考えているからです。

松下幸之助氏は「指導者は真実を直感的に見抜くカンを養わなくてはならない」と述べています。情報を収集し、分析し、リスクをとりながら無数の決断を下すCEOは、その都度カンを養っているのです。そのカンの働きと合理的な判断が成功をもたらしたと言えるでしょう。

トランプ氏はイーロン・マスクが「政府効率化省」を率いることを発表しました。「政府効率化省(Department of Government Efficiency)」は、現時点でアメリカには存在しない新しい省庁であり、新設が計画されています。これにより、AIや宇宙開発に関する規制緩和が加速すると予測されます。2026年にテスラが発売予定の自動運転タクシーについても、規制緩和が急速に進むでしょう。

世界長者番付を毎年発表するフォーブスによると、5月28日にイーロン・マスクは世界一の資産家に「返り咲いた」とのことです。2022年には世界一の富豪となったものの、2023年と2024年は仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンのベルナール・アルノー氏にトップの座を譲っていました。トランプ氏が返り咲く前に、マスク氏がすでに返り咲いていたのです。
リーダーには運が重要だと講演で話すと、「運を良くするにはどうしたらいいですか?」という質問をいただきます。私は「運の良い人と付き合うことです」と答えます。世界一の大富豪に返り咲くという強運を持つイーロン・マスクがトランプ政権に加わることで、トランプ氏の運もますます強まるのではないかと思います。

〇「またトラ」は日本市場に有利

トランプ氏は2回目の選挙で接戦ではなく、圧倒的な勝利を収めました。民主主義のもとでアメリカ国民が1度目だけでなく、2度目もトランプ氏に勝利を託したことは、素直に受け止めるべきでしょう。
報道では、トランプ新大統領の登場により世界が混乱し、日本も影響を受けるのではないかと懸念する声が多く見られます。しかし、私はそうは考えません。英国のファイナンシャル・タイムズは「地域紛争や想定外の災難に巻き込まれない限り、日本は今後数年間、米国以外の先進国市場でほぼ最大の繁栄を享受する立ち位置にある」と配信しています。

トランプ氏は中国への圧力をさらに強めるでしょう。上海市場や香港市場から流出するマネーは、石破政権が適切に対応すれば日本に流れ込む可能性があります。米国の年金基金も対中投資の停止、さらには撤退を求められており、これも日本市場に向かう可能性が高いでしょう。
「アニマルスピリットにけん引され、日本の金融市場は今後半年間上昇気流に乗るだろう」とするファイナンシャル・タイムズの見立てに、私も同意します。
「今後半年間」というと、2025年4月頃までを指します。今年初めには日経平均が4万円を超え、「Japan is back(日本は復活した)」と言われましたが、来年3~4月には再び「Japan is back once again(日本は再び復活した)」と言われる可能性が高いと考えています。

〇円安は持続する

10月27日の総選挙で自民・公明が215議席にとどまり、過半数割れとなりました。その結果、野党である立憲民主党が予算委員長ポストを獲得しました。新予算委員長に就任する安住元財務大臣は、当選同期であり、アメリカや中国に同行するなど仲の良い政治家です。今後の国会審議は新たな展開を見せるでしょう。重要なのは、これまで儀式的だった不信任案が、成立の可能性を持った緊張感あるものになることです。
日本国内からは政治が混乱しているように見えますが、海外から見ると、増税や金融引き締めといった痛みを伴う政策が難しい状況は、経済的にはプラスと捉えられているようです。

トランプ氏が再び大統領になればドル安円高になるとの見方もありますが、私はそう考えません。トランプ氏の経済政策により、所得税減税の恒久化や法人税減税が行われ、アメリカ景気は過熱するでしょう。また、輸入品に対し10%、中国製品に対しては60%の関税を課すとトランプ氏は述べています。実際には自動車や一部の商品のみが対象とされるでしょうが、それでも輸入価格の上昇を招きます。不法移民の強制送還も進められ、人手不足が生じて賃金が上昇し、アメリカのインフレが促進されるでしょう。結果として、アメリカの金利引き下げは難しくなります。

来年には参議院選挙がありますが、日本銀行が金利を上げる可能性は低いでしょう。植田日銀は7月31日の金融政策決定会合で追加利上げを決定しましたが、わずか0.15%の上げ幅でした。それでも8月5日には日経平均株価が一時4,700円超の下落を見せ、市場では「植田ショック」と呼ばれました。参議院選挙前に同様の事態が起きれば、与党にとっては悪夢でしょう。金利は維持される見通しです。

日米の金利差が縮小することはなく、円安ドル高の基調は続くでしょう。これにより日本の輸出産業は恩恵を受け、欧米からのインバウンドもますます増えると予想されます。

〇ウクライナは終結へ、台湾進攻は起きず

トランプ氏はウクライナと中東の戦争を終わらせるため、迅速に行動するでしょう。同時に、ヨーロッパのNATO諸国には防衛費拡大を求めるはずです。EU諸国の対GDP防衛費比率は冷戦期の1960年には3.8%でしたが、冷戦終結後は90年代後半から2%を切り、近年は1.5%前後で推移しています。「平和の配当」を享受していたわけです。

トランプ前政権の圧力を受け、NATO加盟国と東アジアの同盟国は国防費の割合を引き上げてきました。6月時点では、NATO加盟32カ国のうち23カ国が国内総生産(GDP)比2%以上の目標を達成しており、これは4年前の2倍に当たります。第2次トランプ政権ではさらなる支出拡大を求められるでしょう。

防衛費GDP比1.4%のドイツは2%へ、イギリスは3%を目標に防衛費増額が加速しています。ヨーロッパ各国は防衛に資源を割かざるを得ない状況です。
防衛関係費がGDPの1.1%である日本も、防衛費増額の必要に迫られるでしょう。しかし、ロシアと陸続きであるEU諸国ほど緊迫した状況ではありません。現在の国会情勢では、防衛費のGDP比を引き上げることは難しく、アメリカにも理解されやすいと思われます。

中国について懸念される方も多いでしょうが、トランプ氏の側近によると、「米国が中国を必要とする以上に、中国は米国を必要としている」というのがトランプ氏の持論とのことです。トランプ氏は台湾有事よりも、貿易協定や関税、通貨に関する方針を語ることが多く、強力な軍事的プレゼンスを背景に経済力を発揮することが戦争回避に役立つと考えています。
日本の軍事評論家が懸念するような中国による「台湾進攻」や「米中衝突」が現実化する可能性は低く、現実的な政策に沿って進むと思われます。

〇 トランプ氏への電撃訪問を

トランプ氏が1期目の大統領に当選した直後の2016年12月、ソフトバンクグループの孫正義社長(現会長兼社長)はトランプ氏を電撃訪問し、米国への巨額投資を約束しました。その後、トランプ・タワーに孫氏とともに登場したトランプ氏が「マサはすばらしい男だ」と親しげに語りかけたことは、世界中を驚かせました。
この出来事のポイントは、12月の「移行期間」に起きたことです。トランプ氏は大統領に当選していましたが、1月20日の就任式までは一企業の民間人でも容易に会うことができる立場にあったのです。

外交において「真っ先に会う」こと、すなわち「真っ先外交」が重要と言われていますが、日本の経済人も孫正義氏のように、この移行期間中に誰かがトランプ氏を訪問されることを期待しています。
トランプ氏の「Make America Great Again」の精神から学び、日本も「Make Japan an Economic Superpower Again(日本を再び経済大国に)」を目指して挑戦していただきたいものです。

「アメリカの言いなりはもうやめよ」の石破政権は短命か?  2024.9.30

 石破茂新総理とは、私が1年生議員、石破氏が3期生議員の頃にオーストラリアに一緒に行ったことがございます。超党派のオーストラリア議員訪問団が結成され、団長が石破氏、私が事務局長役を務めた記憶があります。

〇オーストラリアでの「May I come in?」

首都キャンベラでは、国会議事堂などを見学し、シドニーでは有力閣僚の自宅に招かれるなど、さまざまな経験をしました。当時の国会議員は今と異なり、英語が得意な人が少なかったため、私が英語であいさつをすると大きな拍手が起こったものです(笑)。

国会で応接室に入る際、石破団長が「May I come in?」と語りかけ、スムーズにコミュニケーションが取れたことで、「(私の)英語が通じるものですね」と嬉しそうにされていたことを、ニュースを見ながら懐かしく思い出しました。

その後、オーストラリア若手議員と安全保障問題について何度も議論する機会がありました。石破氏は当時から安全保障問題の論客であり、クラウゼウィッツの『戦争論』を座右の書としているとのことでした。しかし、当時の日本ではかなり進んだ議論でしたので、私は「His opinion is unique in Japan」と言ったのです。すると、石破氏が「No, no, I am not unique」と手を振って強く否定されたことも思い出します。

英語の"unique"は「唯一の」「他に類を見ない」という意味で使われ、他と比較できないほど特別で独自なものを指します。英語ではポジティブな意味合いが強く、何かが他と比べて非常に珍しく、一つしかないことを強調します。私はそのような「先進的な意見」という意味を伝えたつもりでした。しかし、日本語では必ずしもポジティブな意味だけでなく、「変わっている」「奇抜」といった意味合いで使われることもあるため、石破氏はそう受け取られたのかもしれません。
その後、石破さんから「嶋さん、あなたは何か私を誤解していないか?」と言われてしまったことも記憶に残っております。

その際、私たちの団として桜の木(?)を記念に植樹したと記憶しております。今から30年近く前のことですから、きっと立派に成長していることでしょう。石破氏が首相としてオーストラリアを訪問される際には、ぜひともその桜をご覧いただきたいと願っております。

〇石破総理の安保政策は「ユニーク」か?

石破総理の安保政策を海外紙は「ユニーク」と評価しています。ファイナンシャル・タイムズは、「中国に対して一貫して強硬な姿勢をとっている石破氏は、構造的に不平等な米国との同盟関係にも不満を示し、この問題の改善に着手すべきだと強調している。具体策として、日本国内にある米軍基地について日本側との共同管理を提起している」と報じました。

ウォール・ストリート・ジャーナルはさらにはっきりと、「日本の次期首相は、日米同盟を不平等と捉え、再構築を唱えてきた元防衛大臣の石破茂氏(67)に決まった。これは米国政府との緊張を高める可能性を秘めている」と述べています。

石破氏は8月に出版した自著の中で、「私は日本はまだ真の独立国とは言えないと思っている」と語っています。実は、私も同じ認識を持っています
選挙期間中、石破氏は日米同盟を再構築するためのさまざまな案を披露しました。在日米軍の大半を受け入れている沖縄での候補者討論会では、米軍基地を日米共同管理とする可能性を示唆しました。また、米軍機が日本で墜落した場合など、米軍基地や装備に日本が近づくことを制限する条約上の規定に異議を唱えています。

著書の中で石破氏は、同盟関係をより対等なものにするため、自衛隊を米国本土、例えば太平洋のグアム島に常駐させることを提案しています。また、侵略への抑止力を高めるために、アジア版北大西洋条約機構(NATO)の設立を提唱しています。これも議論があるところでしょう。 

2018年、トランプ大統領時代に石破氏はウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに応じ、その中で「日本が米国に全面的な忠誠を誓うだけなら無視されるだろう」と語った。「トランプ大統領とゴルフしなくてもいい、トランプタワーに行かなくたっていい。日本は手ごわいぞと思わせることが大事だし、ディールのカードを持つこと(が大事)。安全保障でディールのカードを全く持っていない」とも述べました。これにも私は同意します。

〇「アメリカの言いなりはもうやめよ」政権は短命

10月27日の衆議院議員選挙となりました。経済や社会保障というローポリシーだけでなく、ハイポリシーである外交・防衛政策を選挙でしっかりと論じてほしいと思います。石破総理対野田佳彦代表なら、良い議論になると思います。

石破氏の主張を一言で言うと、「アメリカの言いなりはもうやめよ」ということでしょう。私もこれには同意します。ただ、この主張は日本では一種のタブーです。

実は、「アメリカの言いなりはもうやめよ」というのは、私のゼミの恩師である飯田経夫名古屋大学教授が、1995年11月に講談社から出版した本の題名です。その後、PHPから文庫本化されました。その前書きで、「この本を出してから、明らかに世の中から干された。…講演や原稿の依頼は、はっきりと減った」…「何人かの友人たちが心配してアドバイスしてくれたとおり、アメリカに盾ついたのが災いしたのである」と記されています。私は1996年に衆議院議員となりましたが、飯田先生から同じようなことを聞いたことがあります。

日本の政界では、「アメリカの言いなりはもうやめよ」と主張した内閣は短命に終わります。私は二人の元総理から、官僚のたいへんな抵抗にあったという話を聞いたことがあります。アジア版NATO構想については、すでに外務省幹部が「構想は現実的でない。相手国のために戦って自国民が犠牲になる恐れがあるという覚悟を持たないといけない。東南アジアは乗ってこない」と批判し、日経新聞に答えています。

安全保障政策に精通した石破総理は、当然そのことをよくご存じでしょう。岩屋外務大臣、中谷防衛大臣、小野寺政調会長と、安全保障政策に対し、筋金入りの政治家をチームとして揃えています。さらに、長嶋昭久氏を安全保障担当の首相補佐官としました。期待できると思います。
衆議院議員選挙まで1カ月もありません。ローポリシーだけでなく、安全保障政策というハイポリシーもしっかりと論戦していただきたいと思います。

社長・役員報酬、給料をもっと高く!  2024.9.6

 日本企業で役員報酬が2億円を超えた人が200人を超えたという雑誌の特集で、ソフトバンクの役員報酬が高いというので取材を受けました。宮川潤一社長が12位で12億8000万円、今井会長7.7億円、榛葉副社長7.7億円でした。
私がいた2014年頃は孫社長でたしか1.1億円でした。孫さんはそのころ私に「日本一給料が高い会社にする」と言っていました。そうすれば世界で戦える人材が集まるだろうという思いだったのでしょう。それが実現しつつあるのでしょうか?
宮川社長(58)は名古屋メタリック通信などを創業の後2002年ソフトバンクに合流し入社。今井会長(66)は2000年に鹿島建設から転職しソフトバンク入社。榛葉副社長(61)は1985年、ソフトバンクの新卒1期生としてソフトバンクに入社しました。「1期生は僕しか残っていないんです」と榛葉副社長から聞いたことがあります。

 創業者、オーナーでなくても、社長になれば12億8000万円、副社長で約8億円もらえたらやる気も出るでしょう。4年社長を務めたら、50億円になります。若きソフトバンク社員も真剣に取締役、社長になりたいと健全なアニマルスピリッツを持つと思います。自分で起業するよりリスクは少ないですがハイリターンです。
その反面、ユニクロの柳井正社長が「日本人の給与水準は30年間ほぼ上がっていない。それどころか、事実上200万円から250万円くらいに半減したようなものだ」と述べ、SNS上で物議をかもしています。

〇世界の経営陣の報酬はもっと高い

 現在の日本一はこのところ、セブン&アイ・ホールディングスのジョセフ・マイケル・デピント専務執行役員の約77億円。セブン&アイはカナダのACTがM&Aをするとして話題になっています。セブン株を持つ資産運用会社幹部は「セブンの経営者は先行きの企業価値を高めるチャンスを無にし、危機感も見えなかった。そのせいでこの状況になったということを彼らは認識していないと思う」とのコメントをウォールストリートジャーナルで読みましたので、すこし疑問もあります。
第二位がフトバンクグループのレネ・ハース取締役の34億円。孫正義会長が社運をかけて投資している英半導体会社アームのCEOでもあります。
 やっと3位に日本人が出てきて、吉田健一郎ソニー会長の23億円。4位も5位も外国人です。ベスト10で創業一族は豊田章夫トヨタ会長一人が16億円で9位に入っています。

 世界に目を転じると日本はまだまだと分かります。Appleのティム・クックCEOの2023会計年度における年間報酬パッケージ(ストックオプション等を含む)が、6320万ドル(約91億600万円)。 22会計年度においては9940万ドル(約144億円)でした。また、2022年のAmazonのCEOであるアンディ・ジャシー氏の報酬パッケージは、約2億ドル(当時の為替水準で約220億円)と報告されています。
 グローバルな視点で見たとき、CEOの報酬は優れた経営者を惹きつけ、維持するための手段となります。つまりCEOはプロフェッショナル経営者であり、チームに勝利をもたらす大谷選手のようなものなのです。したがって報酬は大リーグ選手かそれ以上に高額となります。
高額報酬は企業が世界中の優秀な人材を引き付けるために不可欠です。グローバル市場での競争力を維持するための「人的投資」と見なされているのです。日本も少し、近づいているのでしょうか。

〇「日本の社長収入は低い」と嘆いた松下幸之助

 昭和の時代、松下幸之助は日本一の金持ちでしたが、アメリカを視察して、日本人の社長の収入が低いことをたびたび指摘していました。
 「私は先日(アメリカの)テレビ会社の社長に会いましてね、非常に感じたことは日本人の社長の収入が少ないことであります。一般の人の収入もそうですが、社長の収入をもっと上げないとテレビ会社の社長として成功できないですよ」1953年、名古屋ホテルでの講演です。
「ゼネラルモーターズの社長の収入は78万ドル・・80万ドルと言ったら2億なんぼでしょう。日本ではそんな給料取れませんわ。ですから、これからは声を大にしてそれをいわなあきまへん。・・日本の社長クラスはもっと月給をよけいとらないといかん」 1963年、「実業の日本」での対談の発言です。アメリカ、GMの社長は60年も前に2億円もらっていたのだからすごいですね。

松下幸之助は会社の経営は最終的には「トップ一人の責任」であると言い、経営者が担っている責任の大きさを語っています。「社長の命令が良くなかったら、みんなが要するに討ち死にするかわからんです」と。それだけの責任を果たすのだから、それだけの報酬をということでしょう。
 私はいくつかの会社の社外取締役を勤めています。指名報酬委員会では、利益の上がっている会社は、経営者が頑張って責任を果たしたのだから、堂々と給料をとるべきだと発言しています。でも、日本人社長、取締役は謙虚な人が多いですね。

〇日本人の給料は200万に半減した? 

国税庁によると、2022年の日本人の平均給与は年間で大体458万円だそうです。柳井さんは、『日本人の給与水準は30年間ほぼ上がっていない。それどころか、事実上200万円から250万円くらいに半減したようなものだ』といいます。
これは経済学的には購買力平価という概念を使って説明できます。購買力平価は、異なる国の通貨が、同じバスケットの財やサービスを購入するために必要な金額の比率です。円安が進行することで、日本の労働者が得る給与の国際的な購買力は下がり、結果的に日本人の実質賃金が減少したことを意味します。

英エコノミストが発表するマクドナルド指数は、購買力平価の簡易版として知られています。国際的に価格の統一されているビッグマックの価格を基準に、各国の通貨の実力を比較する方法です。
日本ではビッグマック1個の値段は450円です。世界で一番高いスイスでは8.17ドルで1ドル=148円として1207円。ユーロ圏では5.87ドルで867円。アメリカでは5.69ドルで841円です。たしかに、日本の給料で欧米で生活しようと思うとかなり苦しいでしょう。韓国の607円よりかなり安いですから韓国で生活しても苦しいことになります。ビッグマック1個が450円というとベトナムと同じくらいですから、日本円の評価はベトナムと同じということになります。
2012年ころの1ドル80円台という時代から比べると、円安の今は円の価値は半分になっています。国力というのは貨幣の価値に表れます。柳井さんの肌感覚では、『世界基準で考えたら日本は年収200万円台の国』だということなのでしょう。

〇世界の優秀な人との競争が給料を上げる

柳井さんは「日本の場合、残念ながらこの30年間成長していなくて、『日本一国主義でいいんだ』という、すごくそういう感覚があるんですけど、でも世界の中の日本にならないといけない」といいます。
さらに、「労働力だけじゃなしに知的能力も落ちていくんじゃないですか」と危機感をのべます。理由は単純労働者ばかりいれていて、世界の優秀な知的労働者をいれていないからだと。「中間管理職から上級管理職の人口の中の移民、あるいは何か研究開発する、そういう人をもっと増やさないといけないんじゃないかなと思います」と 世界から優秀な人が来て、日本人と競争する。競争は日本人を優秀にして、知的生産性をあげる。それが結果として給料を上げるということでしょう。
「日本は日本人だけでこれからやっていけないでしょう。少数の若い人で大多数の老人をどうやって面倒見るんですか」
子供たちが世界で競争できるほど優秀で知的生産性が高ければ、それに応じて賃金は高く、年老いた親への仕送りもできるでしょう。柳井さんの発言は日本全体としてそれを目指せということだと思います。
おりしも、自民党総裁選、立憲民主党代表選が行われます。総裁候補者、代表候補者は柳井さんの「少数の若い人で大多数の老人をどうやって面倒見るんですか」という問いに答えてほしいと思います。

バイデン氏撤退、運のいいやつが一番偉い  2024.7.22

 謹啓 大暑の候 初蝉を聞いたと思ったら、夏木立に蝉しぐれが響きます。夏ですね!

 7月13日、トランプ前大統領が銃で撃たれました。当局は「暗殺未遂」と発表、右耳をかすめ、流血。あと数センチで、大変なことになっていました。
 7月21日、バイデン大統領が大統領選撤退をSNS、Xで表明。後継指名をハリス副大統領としました。しかしハリス氏で一本化することは難しいでしょう。オバマ元大統領が声明を発表、バイデン氏の撤退判断を称賛しました。しかし後任候補への支持は表明しませんでした。

米国民主党、代議員は8月前半に指名投票でバイデン氏以外の候補を自由に選べるようになります。党の規則によると、代議員は候補者の指名投票で「良心に顧みて」予備選の結果通りに投票すると定めていますが、強制力はありません。バイデン撤退のため、どんな候補者がでるかはこれからです。
オバマ氏は8月19日から22日に開催される指名候補者が決まった時点で党を結束させ、11月4日の大統領選挙でその候補が勝利するよう全力を尽くす意向とされています。
日本でも、9月には岸田総理続投か否かの自民党総裁選、立憲民主党の代表選がありますが、国民の関心は低いです。アメリカ政治のダイナミックさを「さすが!」と感じています。

〇トランプ暗殺未遂

大統領候補の暗殺未遂は民主主義の破壊であり断じて許されることではありません。ただ、私はトランプ氏が耳から血を流しながら、腕を突き上げて立ち上がる映像を見ながら、織田信長が鈴鹿山脈の千草峠で根来衆の杉谷善住坊に狙撃されながら無事だったことを思い出していました。

時は1570年5月。浅井、朝倉連合軍と戦う「姉川の戦い」はその1か月後でした。信長を狙った、甲賀忍者・杉谷善住坊は鉄砲の名手。狙撃の距離たるやわずか12-3間(25メートルほど)という近さ。射止められないのがむしろ不思議の距離でした。
弾は二つとも信長の姿に吸い込まれました。しかし、信長の体に当たらず、袖に穴をあけただけでした。このとき信長は騒ぐことなく馬を進め、通過します。下手人捜索にも直接の指示はだしませんでした。思うに、自分に天命、天運があるとしみじみ感じたのではないでしょうか。もちろん、善住坊は後に配下にとらえられ、処刑されます。
当時、信長のもとで京都守護職をつとめていた明智光秀は「信長の運はそこまで強勢か」と驚きます。そして、姉川の戦いで「浅井、朝倉に勝つだろう。勝っていよいよ彼の運は上り続けるだろう」と思ったとのことです。
その後、信長の運はたしかに上がり続け、天下布武に一直線。明智光秀による本能寺の変はこれから12年後の1582年6月のことでした。

トランプ氏も17日の共和党大会での大統領候補受諾演説はいつもと違い、静かなトーンでした。「私は米国の半分ではなく国全体の大統領になるために立候補している。半分のために勝利してもそれは勝利ではない」トランプ氏も自分の運と、天命を感じたのではないでしょうか。

〇運のいい奴が一番偉い

 昭和36年、早稲田大学での講演。松下幸之助氏は「運のいい奴が一番偉い」と断言しました。
「人間、いちばん偉いやつは何かということです。いろいろありますけれども、やっぱり運の強いやつが一番偉いと思うんです。(笑)頭がよくて、体格もよくて、社交もうまくて、金は持っている。大変具合いいな、そんならこの人にうちの娘を嫁さんにやろうか、ということで、やったところが、あくる年ころっと死んでしもうた。(笑)さっぱりわやですわ。そうしてみると、人間というものは運の強いやつがいちばん偉い。これはおもしろいことですよ。皆さんにこれを知ってもらいたい」
 そして、「自分は運がいい」と自己認識すると大いなる力が出ると早稲田の学生に話します。
「皆さんは相当に運を持っていると私は思うんです。運の弱い人間は、もう今日までに死んでおりますわ、第一。(笑)皆さんは生き残って大学に学んだということは、ある程度の運を持っておるわけです。その自己認識ができるかどうかということです。その自己認識ができると、おれは戦に行っても負けんぞという気になるんですね」

 私も「自分は運がいい」と思って行動してきました。それが運のいい人生を拓いたと思っています。

〇「奇跡の1枚」が撮れたのは日ごろの鍛錬

 トランプ前大統領の暗殺未遂事件で、銃撃を受けた直後に拳を高く上げる写真が、「奇跡の一枚」として話題になっています。青空に星条旗がはためき、見事な構図です。
 奇跡は奇跡的に起きるものではありません。撮影したのはエバン・ブッチというかカメラマン。AP通信に所属。黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官に押さえつけられ死亡したことへの抗議デモを撮影した一連の写真で、2021年にピュリツァー賞を受賞しています。

松下幸之助氏は大相撲が好きでした。勝負が一瞬の間に決まるというところが好きなのだそうです。「力士の人たちは、その一瞬の勝負のために、毎日朝早くから夜遅くまで文字通り血のにじむような鍛練をし、稽古に励んでいる。そしてその成果を土俵の上で一瞬の間に出し尽くす」というのです。
SNSなどで「完璧」と賞賛される一瞬の構図を捉えた「奇跡の一枚」にはエバン・ブッチ氏の鍛錬が集約されているのです。
「奇跡の一枚」は、そのインパクトの強さから太平洋戦争中に撮影された「硫黄島の星条旗」や、19世紀の画家ドラクロアが描いた「民衆を導く自由の女神」に匹敵するとの声がSNSを駆け巡りました。間違いなく「歴史を変えた1枚」になると思います。

〇ほぼトラ、確トラに備えよ

 11月の米国大統領選挙は「もしトラ」(もしトランプが勝ったら)から、「ほぼトラ(ほぼトランプが勝つ)」「確トラ(確実にトランプが勝つ)」という予測が多くなりました。民主党はこれから候補者選びですから、劣勢を強いられるでしょう。
 テスラのイーロン・マスクCEOが銃撃事件の30分後にトランプ支持を表明。トランプ前米大統領を支えるスーパー政治活動委員会(PAC)に毎月4500万ドル(約71億円)を献金することを約束しました。大統領選投票日の11月5日まで4か月として、284億円。日本の自民党本部の23年度収入が248億6000万円ですから、一人の個人献金としてはスケールが違います。

 トランプ氏が指名した副大統領候補は元ベンチャー投資家のJDバンス上院議員です。人工知能(AI)を規制し、巨大テックの買収を阻止するバイデンに反対するということで歴史的に民主党支持が多い、シリコンバレーにトランプ氏支持が増えているそうです。AI革命はマグニフィセント7(アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ、テスラ、エヌビディア)を主役に一挙に進むでしょう。
「我々は大きな通貨問題を抱えている」。トランプ氏はインタビューで、為替政策について踏み込みました。強いドルが問題だと指摘し、人民元と円の弱さを名指しで批判しました。一方的な円安のトレンドが変わる可能性が高いです。日本の株式市場も荒れるでしょう。
 トランプ氏の反自由貿易の姿勢は、副大統領候補バンス氏とも共通します。トランプ氏は中国からの輸入品に60%、その他の輸入品には一律10%の関税を課す案を提示しています。隣国のカナダとの間ですら貿易戦争が起きると予測されています。日本との間でも当然おきます。
 共和党の政策はレーガン政権(1981〜89年)やブッシュ政権(89〜93年)の時代の保守的な自由市場主義から、Make America Great Again :MAGA(米国を再び偉大に)という経済ポピュリズムにシフトすることが確実になります。
この夏休みは経営者も、政治家も「確トラ」に備えていただきたいと思います。とくに政治家は、SNSで見るような夏祭り、盆踊りを回っているだけでなく、トランプ氏の「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」のように、「Make Japan Great Again(日本を再び偉大に)」の政策を練ってほしいと思います。
謹白

パリオリンピックは世界一の大富豪が仕切る?! 2024.7.2

 謹啓 夏至の候 講演にお呼びいただき、マンゴーが旬の宮崎に行ってまいりました。宮崎は2020年幸福度ランキング1位の県でした。しかしこのところは、沖縄やTSMCの進出で沸いている熊本の後塵を拝しているようです。
日本一の富士山は誰でも知っていますが、日本2位の北岳は知られていません。1位とそれ以外は大変な差があるので、再び1位を目指すべきとお話してきました。

 スポーツの世界一を争う祭典、パリオリンピックが7月26日から開催されます。
ところで、現在の世界一の大富豪は誰だと思いますか?テスラのイーロン・マスクやamazonのジェフ・ベゾスと思う人が多いでしょうが、実はオリンピックの開かれるフランス人です。
 LVMH(ルイ・ヴィトン、モネ、ヘネシー)のオーナーであるベルナール・アルノーがその答え。23年、24年とマスクやベゾスを抑えて、1位となっています。「パリオリンピックはLVMHが仕切る」とさえ言われています(笑)

〇初めての「世界一の大富豪」は日本人

 フォーブスが毎年3月、世界の世界長者番付、大富豪ランキングを発表します。初めて発表したのは創刊70周年を迎えた1987年でした。その年のトップに君臨した「初めての世界一の大富豪」は日本人でした。
 プリンスホテルなどを保有する西武鉄道グループの総帥、堤義明氏が世界一の大富豪だったのです。実は私は1986年まで松下政経塾の研修で西武鉄道グループにいました。松下幸之助氏と堤義明氏との会談で私の西武研修が決まったこともあり、「世界一の大富豪」直前のカリスマ性と迫力を感じたものです。
 この世界一の大富豪ランキングは時代のトレンドをみるのに役立ちます。1987年から1994年まで世界一の大富豪は日本人が独占していました。91年と92年が森ビルの森泰吉郎氏。あとは堤義明氏でした。「山手線内側の土地価格で、米国全土が買える」とも言われた不動産バブルがあり、日本が強かった時代です。
 1995年、マイクロソフトの創業者、ビルゲイツがトップとなります。IT革命の号砲です。そして、日本は凋落してゆきます。

〇メキシコのカルロス・スリムが世界一の時代

 1995年から2007年までビルゲイツがトップでしたが、2008年にウォーレンバフェットがトップに。再び、2009年はビルゲイツがトップになります。
 そして、2010年、メキシコの携帯電話事業会社アメリカ・モビル(America Movil)のオーナー、カルロス・スリムがトップに立ちます。これはIT革命からスマホ革命への時代の象徴だと私は思いました。カルロス・スリムは2010年から2013年までトップでした。 
 カルロス・スリムも知っている人は少ないと思います。メキシコの通信王であり、不動産王と呼ばれています。カルロス氏は1940年、メキシコシティ生まれ。父親から受け継いだ商店を元手に投資事業で頭角を現します。
90年代に、メキシコ国営企業民営化の波に乗り、メキシコ国営の通信電話会社「テルメックス」をアメリカの通信会社「SBC」、フランスの「テレコム」との協力によって買収します。2002年よりメキシコ電話会社(Telmex)会長となります。
2007年会長を務めるアメリカ・モビルはヤフーと提携し、ラテンアメリカ及びカリブ海地域の16ケ国でモバイル検索を展開します。そして、スマホ革命の大波が来て世界一の大富豪に飛躍したのです。
世界一だった当時、自分の月収をわずか2万4000ドル(約210万円)に固定しているという「清貧な生活」(?)で有名になりました。
2014年に、ビルゲイツがトップに返り咲きます。そして、世界一の大富豪はアメリカの時代になります。

〇世界一はアメリカからフランス、ベルナール・アルマーへ

世界一の金持ちというと、多くの人はマイクロソフトのビルゲイツ、アマゾンのジェフ・ベゾスとか、テスラのイーロン・マスクを思い浮かべます。世界を席巻したIT革命、自動車のゲームチェンジをもたらしたEV革命、そしてAI革命のトップランナーたちです。彼らはアメリカの企業家たちです。彼らが、世界一の大富豪というのは、なんとなく納得する人が多いのではないでしょうか。ジェフ・ベゾスは2018年から2021年までの4年間連続トップでした。2022年、イーロン・マスクが世界一になります。  
2023年、前述したようにフランス、LVMHのベルナール・アルマーになります。Lアルマー氏は「フランス・ファッション界の帝王」「ファッションの法王」と呼ばれます。
2024年、アルマー氏は2年連続で1位となりました。アルノー氏の資産は2330億ドル(約35兆円)と、前年から10%増えました。24年の2位が、テスラのイーロン・マスクで資産、(1950億ドル)。3位がジェフ・ベゾス氏(1940億ドル)でした。

ちなみに、 日本人のトップは、「ユニクロ」ファストリテイリングの柳井正会長兼社長で、資産額428億ドルの世界29位。日本人2位がソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が327億ドルで世界51位でした。

〇パリオリンピックはLVMHが仕切る

フランス、パリでオリンピックが開催されます。パリオリンピックの金・銀・銅メダルをデザインしているのはフランス革命前の1780年から続く高級宝飾ブランドの一つ「ショーメ」です。また副賞などを運ぶために使用されるのは「ルイ・ヴィトン」の革製品です。
セーヌ川で開催予定の豪華な開会式でフランス選手団が着用するユニホームを制作しているのはファッションブランドの一つである「ベルルッティ」。VIPのスイートには「モエ」のシャンパンと「ヘネシー」のコニャックが用意されます。
 ルイ・ヴィトンを始め、いくつかブランド名をだしましたが、実はこれすべてアルノー氏が率いる「モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)」グループの傘下にあります。ティファニーやクリスチャン・ディオールも、いまやLVMHの傘下ブランドです。また、LVMHはパリオリンピック、最大の国内スポンサーです。
「われわれの職人はトップアスリートやコーチと同じように完璧主義者だ」とアルノー氏は言います。「われわれのブランドはフランスのイメージを世界中に伝える」とも。パリオリンピックはLVMHが仕切っていると言って過言でないでしょう。
 14世紀、ペストによるパンデミックが終わった後、人々は教会を離れ、人間復興=ルネッサンスを起こし、芸術が花開きました。ポストコロナでも、芸術が再び花開く時代が来るような気がします。LVMHのアルノー氏が世界一の大富豪になったのはその兆しのように思えます。パリオリンピックに注目しましょう。謹白

良い円安、悪い円安 2024.05.20

謹啓 立夏の候 ヤマボウシの白い花が青嵐に揺れています。五月の空に冠雪が少なくなった青い富士山が浮かびます。良い季節ですね。
 講演にお招きいただき、愛知県、東三河の豊橋に行ってきました。実は5年前、2019年にも同じ主催者様の講演に招かれました。コロナが世界的に流行する前です。その頃、1ドル=108円でした。

〇悪い円安の分岐点、1ドル=157円

株価も企業業績も絶好調なのに、今年1から3月期のGDPはマイナスの成長に沈みました。インフレ懸念でGDPの半分以上を占める個人消費が低迷しているからです。
この春は賃上げが発表されたのですが、JPモルガンは、賃上げがインフレで帳消しになる損益分岐点は1ドル=157円としました。
 以前に豊橋に行った2019年頃は円安が進むと、三河の主力産業であるトヨタなどの輸出産業にとって有利と無条件に言われました。「良い円安」だったのです。これは現在でも変わっていません。バンク・オブ・アメリカによると、円の為替レートが対ドルで1円下げるごとに、TOPIX500の構成企業の営業利益を0.5%押し上げると試算されています。5年前は108円ですから約50円円安になっているとすると25%も営業利益が押しあがっていることになります。日本企業の決算が良いのも、トヨタが今年5兆円の営業利益となったのも円安効果が多かったと思われます。
一時期、テスラに追い付くのではと言われた、時価総額日本一のトヨタの株価がもう一つ冴えません。これも円安が一つの原因です。外国人投資家が日本株を買うのに「為替リスク」を考えざるを得ないのです。TOPIXは今年、円ベースで16%上昇しましたが、ドル換算すると5%の上昇にとどまっています。為替リスクを考えると日本株に手を出すのをためらうのは当然でしょう。

日本株がバブルの最高値38915円をつけた1989年、アメリカのダウ平均は2753ドルでした。21世紀に入って約1万ドル。そして、5月17日、史上初の4万ドルを超えました。35年間で約15倍になっています。投資家のウォーレン・バフェット氏が母国アメリカを信頼しているというのは当然と思えます。日経平均は今年最高値を付けたといっても35年でもとに戻っただけです。
 現在の円安水準は日米金利差だけでなく、日本の国力の低下がもたらしたものです。円安とは日本の通貨円で世界から買えるものが高くなるわけで、インフレにつながります。食品やエネルギーなど輸入品の価格が上昇し、せっかく春に上がった給料、実質賃金を消してしまい、さらには個人消費の伸びを阻害します。生活が苦しくなる「悪い円安」になってしまうわけです。この分岐点が1ドル=157円です。
日本政府は円安是正の介入の目途を157円目標とすべきだと思います。というより、5月介入を見ると、もうそうなっているように見えますね。

〇円安は続くという「ニュアンス」

GW明けに『衆議院前議員会』という衆議院議員経験者の同窓会の会合があり、為替介入について財務大臣経験者に聞きました。その財務大臣の頃は1ドル=80円台。今とは逆に、円高是正の介入をした財務大臣です。
「GW中の介入による円・ドルの動きすごかったですね。介入の時は、アメリカに連絡するのですか?」
「アメリカには事前連絡をする。私も○○財務長官にした。どうしてもアメリカが駄目だという時にはやらないが、そのあたりはニュアンスでわかる」

今の円の水準はどうか?と聞いたら
「ちょっと安すぎる。だから、財務省は今後も介入をするんじゃないか」と元財務大臣。
「でも、円高是正は円を刷って売ればいいんですから、限界はないんでしょうが、円安是正は外貨準備がなくなったら終わりでしょう」と私。
その元財務大臣、ちょっと詰まった後、「でも外貨準備は28兆円あるからな・・」と。
こんな話が気軽にできるのも、同窓会であればこそです。私は中期的に円安トレンドが変わらないという「ニュアンス」を感じました(笑)


〇日本の特色「ヒラの人」が真面目

 熊本が台湾のTSMC進出で湧いています。熊本工場での大学学部新卒採用の初任給は28万円と高く、現地では「黒船がやってきた」と言われています。
TSMC創業者のモリス・チャンはアメリカ、アリゾナに熊本より早く進出しましたが、労務のこじれなどで工事が遅延。熊本の方は日本人らしく予定通り完成しました。モリス・チャンは「米国には製造業の人材が既にいない。コストも高く、非常に無駄でコストのかかるやり方だ」と批判。日本に対しては信頼を深め、熊本第二工場の建設を決めました。
 豊橋の財界人に「工場建設が遅れるなんて、東三河では考えられないでしょう」といったら、「もちろんです。ここの人は皆真面目だから」との答えが返ってきました。

 私は豊橋に近い、名古屋大学経済学部を卒業、大平正芳総理のブレーンをつとめた飯田経夫教授のゼミでした。当時、一番厳しいゼミとして有名でした(笑)
 その飯田先生が日本の強さのポイントは「ヒラの人」の真面目さだとよく言っておられました。「私の印象では人の上に立つ人はどこの国でも」よく働く。「アメリカのビジネスエリートたちがいかに猛烈に働くかということはしばしば伝えられる」しかし、「ヒラの人」はそうではない。どこの国でも「人の上に立つ人」は優秀かつ勤勉であってそれほど大きな差はない。「ただ、日本の特色は一握りのエリートだけでなく、ごく普通の庶民も優秀かつ勤勉」であるということだとの結論でした。(「日本経済成長の結末」飯田経夫) 私も大学を卒業して、世界各国のビジネスの現場を経験しましたが、同じ感想を持ちました。
 「ヒラの人が優秀かつ勤勉」という日本の特色をもう一度再発見(ディスカバー)して経営することが重要と思います。

〇これからはディスカバージャパン

 アメリカと日本を比較した場合、日本の物価が極めて安いことがわかります。ビッグマックはアメリカだと882円、日本は480円。ネットフリックスはアメリカ2401円、日本は1490円。ユニクロ、ヒートテックはアメリカ3860円、日本1990円。昨年ヒットしたミュージカル「ムーランルージュ」のチケットは「日本が世界一安かった」と主役を務めた俳優の井上芳雄さんが言ってました。
 ビッグマックを882円で食べている欧米観光客はなんでも安く感じます。たとえばお昼に5000円の懐石料理を食べたとして、882円のビッグマックの約5.7個分です。日本だと480円で懐石料理は約10倍ですから、ちょっと考えますが、5.7個分だと2736円となります。ご褒美に食べようと思いますよね。逆に外国人観光客がターゲットならもっと高く値段を設定しても良いことになります。
 外国人富裕層がスキー客として多く訪れるニセコでラーメン1杯3000円というのがニュースになりました。3000円はアメリカのビッグマック882円の3.4個分。日本だと480円の3.4個分は1600円ですから、まああるかなと思います。 人口減で悩む地方は、円安のメリットを活かし、外国人観光客の冨を体系的に取りこむ戦略を考えるべきと思います。
 この円安ですから、海外旅行はあまり楽しくありません。私も秋に予定していたイタリア旅行をキャンセルしました。その分、国内旅行で楽しもうと夏の上高地帝国ホテルの特別室を予約しました。値段はまあしますが、海外のホテルのスタンダード価格で特別室に泊まれます。妻は「世界一安い」チケットで再演する「ムーランルージュ」を見に行くそうです。ディスカバージャパン(日本再発見)がこれからを楽しむコツかと思います。

せっかく豊橋に来たので、徳川家康の腹心、酒井忠次が城代をつとめた吉田城を訪問しました。三の丸会館で立礼のお茶をいただきました。銘「あやめ」のお菓子付きで550円(リーズナブル!)でした。
吉田城の天守代わりの「鉄櫓」までの道を聞いたら、「わかりにくいですから」とお茶を出してくださった方が途中まで案内してくださいました。茶道の「おもてなし」精神のすばらしさを感じ、やはり「ディスカバージャパン」で楽しむのが一番と思いました。                               謹白

TSMC創業は55歳・・起業成功者は中年 2024.04.18

今年は入学式が桜時に行われました。
 1981年4月、私は松下幸之助氏が85歳の時に設立した松下政経塾に二期生として入塾しました。私も4月25日に66歳になります。85歳で新しいチャレンジをされた我が師、松下幸之助に畏敬の念を持ちます。
孫正義氏が、後継者育成ということで2010年7月にソフトバンクアカデミアを開講しました。その時、孫氏は53歳。私が「まだ早いのではないですか。松下幸之助氏が松下政経塾を開いたのは85歳の時でした」と言ったら「85歳ですか」と驚いていたことを思い出します。

〇TSMCの創業は「大器晩成」モリス・チャン氏55歳の時
 熊本への進出によりニュースで台湾の半導体企業、TSMCという会社の名前がよく聞かれるようになりました。世界の時価総額ベスト10にアジアから入っているのは4月時点ではTSMCのみです。このTSMCを張忠謀(モリス・チャン)氏が立ち上げたのは55歳のときでした。

 時価総額ベスト10を占めるマグニフィセント7の企業の創業者は驚くほど若い時に寮の部屋やガレージ、飲食店などを拠点にして立ち上げました。創業時にマイクロソフトのビル・ゲイツ氏は19歳、アップルのスティーブ・ジョブズ氏は21歳。アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス氏とエヌビディアのジェンスン・フアン氏は30歳でした。
 ところが、アジアのTSMCのモリス・チャン氏は55歳。彼は年齢をものともせずに成功したのではありません。年齢を重ねていたからこそ成功したのです。
現在92歳のモリス・チャン氏は中国で生まれ、米国で30年働いた後、一つの強い思いを胸に台湾に移住します。
 「偉大な半導体企業を作りたいと思った」。
 
〇成功している起業家は中年
 55歳で創業したモリス・チャン氏は例外なのでしょうか。米国の経済学者のチーム、年齢の高い起業家が若い起業家より成功しているのかを調査しました。2007~14年に会社を設立した米国の創業者270万人を特定し、彼らの年齢を調べました。

 創業時の平均年齢は41.9歳。最も急成長する企業に限れば、45歳でした。さらに50歳の創業者は30歳の創業者に比べて大成功を収める確率がほぼ2倍高く、成功の確率が最も低いのは20代前半の創業者だったのです。調査を行った経済学者たちは「若い方が成功する」と思っていました。その反対の結論が出たのです。
 理由はシンプルです。ビジネスでは年齢が高い方が有利なのです。40代や50代の起業家は自分の手で世界を変えられるという高揚感はすくないですが、実際にどうすればよいかが分かる経験を身に付けています。キャリアを通じて蓄積した学びや人脈もあります。
 そして何よりも若い人を危ぶみ、年長者に敬意を払うというのがアジアの文化です。アジアの成功する企業者はスタートが遅い、「大器晩成型」なのです。
 米国調査論文の結論は「成功している起業家は中年だ。若くない」というものでした。アジアでは特にその傾向が強いのではないかと思います。

〇アップルの背中が見えた中国、小米(シャオミ)は41歳創業
 Appleをモデルとし模倣し、経営を進めてきた中国のスマートフォン大手、小米(シャオミ)がついにアップルに追い付こうとしています。アップルは今年、10年の歳月と数十億ドルを費やした電気自動車(EV)開発をひそかに断念した。その一方で小米は今や、中国・北京の生産ラインから数分おきにEVを送り出しています。
創業者雷軍(レイ・ジュン)は1969年生まれの54歳。7人の同僚とシャオミを創業したのは2010年、41歳の時でした。中年です。
卓越したアイデァを次々に製品化し送り出します。アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏にたとえられ、「中国のジョブズ」の異名をとっています。ただ、模倣が多いのも事実。コロナ前、中国深に行き、シャオミを訪問しました。家電製品のデザインは白が主体のシンプルなもので、当時中国で人気だった「良品計画」の「模倣」と感じました。
松下電器も昭和時代「マネシタ電気」と言われました。これもキャッチアップ戦略では重要です。松下幸之助曰いわく「よそ様のものをよく勉強させていただいて、少し改良して出せばよいのです」「「日本人は決して単なる模倣民族ではないと思う。吸収消化する民族です」
雷軍(レイ・ジュン)氏が北京で計画の発表からわずか3年でEVを完成させた偉業を盛大にアピールしました。ただ、本音も一言。「毎日、恐怖に震えていた」

 コロナ前、よく清華大学、中欧国際商学院のEMBAで学ぶ経営者に講演をしました。EMBAとはエグゼクティブMBAの意味で、上場を果たしある程度成功した経営者が学びなおす場です。日本で言えば、若くして上場を果たしたヒルズ族のような人がもう一度専門的な経営教育を受ける場といえます。アリババのジャック・マーも清華大学EMBA卒です。
 感心するのは、成功したに関わらず、三十代、四十代になって学生になり欧米MBAの戦略手法を学び、さらなる飛躍を目指すことです。質問も時間一杯途切れることありません。コロナが収束したので時々講演の依頼が来ます。小米(シャオミ)の経営戦略について聞かれたので「模倣戦略は良いと思います。私もシャオミの株を持ってます」と答えたら大うけでした。
 日本の30代、40代経営者、ビジネスマンももう一度学びなおし、第二の創業に挑戦し、さらなる飛躍を目指してほしいと思います。

〇六十にして六十化す
孔子の古い友人で論語にも出てくる、衛国の大臣を務つとめていた蘧伯玉(きょはくぎょく)という人がいました。『淮南子』に、「蘧伯玉、行年五十にして四十九年の非を知り 六十にして六十化す」とあります。
私なりに訳します。「五十になった時、それ迄の四十九年間を振り返って深く反省した。六十になった時は、六十回も生まれ変わったように生新な人であった」
人間は五十歳にもなればある程度、人生が見えてくると思いがちです。同時に、まあ私もそれなりにがんばったなと心のどこかに自らを恕(ゆる)し、肯定しようとする意志が働きがちです。
その時に「五十にして四十九年の非を知る」として、いままでの自己を反省し、新たなスタートに立つことは難しいでしょう。それをしたのがTSMCを55歳で創業者したモリス・チャン氏だったと思います。
85歳で松下政経塾を創設した松下幸之助氏は、「八十五にして八十五化す」というところでしょうか。いくつになっても生まれ変わったように生新な人生を送りたいと思います。

イーロン・マスクの「日本は消滅する」へ対抗するには 2024.04.01

 テスラのCEO、イーロン・マスクが「もし、何も変わらなければ日本は消滅するだろう」とツィートしました。2023年の日本の出生数が75万8631人と、統計開始以来の過去最少を更新したことを受けた投稿です。

2022年5月に「出生率が死亡率を上回るような劇的な変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう」とツィートしたのに続き、2回目です。2年間、政治は対処できず「何も変わらなかった」ことに対する警鐘と言えましょう。

〇関西三都は人口減少都市

 大阪、京都は人口減少が問題となっています。令和三年の人口減少都市ランキングでは1位が京都で11913人減少(総務省)。2位が神戸市の9208人、3位が北九州の8126人、4位が大阪の7766人となっています。

大阪を含む関西の三都が人口減少都市の上位なのです。これは社会的流出入も含んでいますが、東京に次ぐ、第二の中心地、関西の三都にイーロン・マスクのいう「出生率と死亡率が上回るような劇的な変化」が起きない限り、「日本は消滅」してしまうでしょう。逆に、日本を消滅させない鍵となる地域が、大阪、京都を中心とする関西だと思います。

 大阪での講演ですので、当然、大阪万博の話となります。「ニュースでは、万博は間に合うのかという話しか聞こえてきませんが」というと、「日本人のことですから、必ず間に合わせます。1970年の万博の時もギリギリでしたし、始まる前あまり評判はよくありませんでした」との答え。

たしかに「太陽の塔」のあった「お祭り広場」の大屋根の工事は開会式直前までかかったそうです。また、大阪万博の前哨戦となったモントリオール博(EXPO67,カナダ)での日本館の評判は散々でした。しかし、開会されてみると6400万人の入場者だったのです。

私も小学校6年生でしたが、故郷の岐阜から3度行きました。5000年先の人類に残す松下館の「タイムカプセル」に影響され卒業の時に「タイムカプセル」を埋めたりしました。いわゆる欧米系の「外人」を見たのも万博が初めてでしたし、コンパニオンのお姉さんがきれいで英語を話しているのを見てびっくりしたものです。あの頃の関西は元気があったように思います。

〇次代のイノベーションを大衆化する万博

 万博はイノベーションを起こす技術導入を一挙に広げ、大衆化させます。今や、ニューヨークは摩天楼が林立していますが、この摩天楼を可能にしたイノベーションとは何か。「エレベーター」です。階段しかなければ地上30階とか40階は無理でしょう。

1853年に開催されたニューヨーク万博。発明家エリシャス・モーチスの「安全エレベーター」が出展されました。「安全」というのは巻き上げロープが切れた際の落下防止装置を備えていることでした。これが世界初の実用的なエレベーターとなり、多くの大衆の関心を買い、「エレべーターは危険でなく安全」という意識改革をもたらします。

三年後、大衆が万博で安全と思ったオーチスの旅客用エレベーターがニューヨーク市の店舗に設置されることとなります。それが受け、一挙に摩天楼建設が進んだのです。

 アメリカ合衆国独立100年記念の1876年、独立宣言の地フィラデルフィアのフェアモント公園で万博が開かれました。ここではタイプライターやグラハム・ベルの電話が出展されました。タイプライターは、コンピューターの巨人、IBMを生みます。電話から始まった通信がその後、インターネットとなり、現在のGAFAMにつながっていきます。

 日本からは内務郷大久保利通を総裁にして、副総裁の西郷従道と事務官の田中芳男が現地へ派遣されます。その時の日本館で人気を集めたのはパチ、パチとソロバンをはじき計算の実演をした手島精一(後の教育博物館館長)だったそうです。アメリカとは大変な差がありました。

 1970年の大阪万博では後の携帯電話につながるワイヤレステレフォンが、さらに、テスラの成長を支えるEV(電気自動車)が出展されています。

2025年の関西万博でも、日本を「劇的に変える」イノベーションの出展がされることを期待します。とくに次代につながるAI革命や電気自動車の画期的なイノベーションが見られるとよいですね。

〇明治維新後の人口減少

 京都は明治維新で「人口減少の危機」に直面します。江戸が東京になり、元号が明治となり、天皇陛下も公家も東京に移ります。超安定的で巨大な内需、皇室需要が一挙になくなります。

 京都の人口は35万人から25万人に激減します。しかも、禁門の変(1863)の大火で800か町,2万7000世帯,そのほか土蔵や寺社などが罹災したままで復興が進んでいませんでした。東本願寺・本能寺が焼失。私が今回訪問した「御幸桜」の華道家元池坊で知られる六角堂も罹災したようです。

そこで、京都がとった方策が「海外からの需要」を呼び込む、具体的には「海外から観光客を呼ぶこと」でした。同志社大学の創設者である新島襄の活躍で街角ごとに通訳ができる案内役、ガイドをおくことまでしたそうです。

2013年の大河ドラマ「八重の桜」で綾瀬はるかさん演じるヒロインの新島八重は新島襄の奥さんです。幕末会津に生まれ、板垣退助率いる新政府軍に対し、鶴ヶ城から最新のスペンサー銃を撃ち「幕末のジャンヌダルク」と言われた女性です。旧姓山本八重、会津藩砲術師範の家に生まれました。

山本八重のお兄さんが京都府顧問、京都商工会議所二代目会頭の山本覚馬です。禁門の変では「蛤御門」で長州藩を撃退します。しかし、鳥羽伏見の戦いで薩摩藩の捕虜となり、幽閉されます。

幽閉期間中にまとめた「山本覚馬建白(通称、管見)」が岩倉具視らの目にとまります。建白書は具体的で、女子教育の奨励、健康のために肉を食することなどもあったそうです。覚馬は明治3年(1870年)、京都府顧問として迎えられます。日本初の博覧会を京都西本願寺で開催。観光客として外国人を招き入れて、西陣織をはじめ京都の地場産業の振興、新島襄が同志社大学を創設するとき支援したりします。

「ローマ人の物語」を書いた塩野七生はローマ帝国発展の大きな要因は「敗者をも同化する寛容の精神」と述べました。敗者である会津藩出身の山本覚馬を京都復興のために招聘した岩倉具視はローマと同じ「敗者への寛容の精神」を持っていたようです。

〇京都銘柄と京都銀行

京都銀行は日本電産、任天堂などのいわゆる京都銘柄を株式として保有し、8000億円を超える含み資産を持つことで有名です。2年ほど前、京都銀行の研究所主催の講演に2年前に及びいただきました。その京都銀行を傘下に持つ京都フィナンシャルグループ(FG)が、地域の中堅・中小企業や老舗企業に資本支援する1000億円のファンドを4月1日に立ち上げるというニュースを興味深く拝見しました。中小企業などの資本支援は政府系金融機関が担うことが多く、地方銀行が独自に大規模ファンドをつくるのは珍しいからです。

京都銀行は京都北部の福知山市に本店を持つ「丹和銀行」がその前身で、1951年に「京都銀行」に改名します。その頃、京都には三井や住友など当時のメガバンクが全て出店していましたが、「たまたま『京都銀行』という名前があいていた」ので「京都銀行」としたのだそうです。

といっても、当時のメガバンク全部が支店をおいている京都では融資競争も大変だったのでしょう。有名大企業でなく、京都に本拠を置く「まだまだ発展途上の元気な会社」に融資、さらには出資したのが日本電産や任天堂に成長したのだということをお聞きしました。

話を聞きながら、「なるほど、今や世界的ゲーム機の任天堂もかつては花札・トランプの会社だった。花札・トランプではメガバンクの敷居は高かっただろうな」と思いました。

〇シュンペーターの「企業家」と「銀行家」

ケインズと並ぶ偉大な経済学者シュンペーターは経済発展をもたらすにはイノベーションが重要と述べました。シュンペーターはイノベーションには「企業家」だけでなく「銀行家」が大事だと主張します。

まず「企業家」がアイデァ、新しい技術の結合を持ち込みます。それに「銀行家」が信用創造を通じて投資資金を企業家に提供します。これで、はじめてイノベーションが実現し、経済発展は進むというのです。

イノベーションの実現において、銀行家は2つの役割を果たします。ひとつは、「目利き」。企業家を見定め、識別するです。もうひとつは「企業支援」。いったん資金提供を始めた後、ビジネス・マッチングや新市場についての情報提供をはじめとして、企業の業績改善につながる情報提供を行うことです。

各地方に基盤をおく地方銀行、信用金庫、信用組合などが「まだまだ発展途上だが元気な会社」に投融資すること。さらにネットワークを活かし、「企業支援」をしてシュンペーターの言う「銀行家」の役割を果たすこと。これが地域再生、さらに日本の復活に重要と考えます。

京都銀行はおそらく、シュンペーターのいう「銀行家」としての役割を果たされたのでしょう。それが、京都銘柄企業の成長と発展につながったのだと思います。

人口減少ランキングでワースト1位の京都です。しかし、京都は欧米からの観光客であふれており、任天堂、日本電産、京セラなど京都銘柄と呼ばれるグローバルに戦う企業群が元気です。

私の尊敬する友人である松井孝治氏がこの3月より京都の新市長になりました。京都が元気になり、日本全国に波及し、イーロン・マスクの「日本は消えてなくなる」発言の修正ツィートが近い将来、世界に流れることを期待いたします。

日本復活の戦術・・「株式の大衆化で新たな繁栄を」 2024.03.18

 日経平均があっというまに4万円を超えました。現在は急速な上昇の調整局面でもあるようですが、投資会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOが日本の繁栄の1980年代を想起して「歴史は繰り返す。今、起きつつある奇跡はもっと長く続くだろう」と述べました。私も100パーセント同意します。

1967年秋、今から半世紀以上前のことです。松下幸之助は「株式の大衆化で新たな繁栄を」と題した提言を発表しました。「一般の人が喜んで株に投資し、それを長期にわたって保持することが結局利益になるような配慮を、企業もまた政治の上でもしていかなくてはならない」というのです。今の日本は松下幸之助の提言に学び、「株式の大衆化で日本復活を」を目指すときと思います。

新NISA導入で多くの人が株式投資に注目しています。ただ1989年末の38,915円の史上最高値を34年ぶりに抜いたといっても、要は元に戻っただけの1倍。NY ダウの1989年末の終値は2633ドル。現在は約38000ドルですから約15倍です。

政治が株式の大衆化で「株主目線」になり34年後に日経平均をアメリカ並みの15倍にするという政策目標をたてる。現在4万円の15倍というと、60万円です。そうなれば、老後の資金問題もかなり解決するのではないでしょうか。

〇一直線の衰亡はない

 私は国家の興亡と衰退を研究するのが好きで、塩野七生さんの「ローマ人の物語」「海の都の物語」などは何度も読んでいますし、中国の十八史略、史記、戦国策は座座右の書です。その中から学んだことは、いったん大をなした文明、国は直線的には衰亡には向かわないということです。

一時期繁栄した国は衰亡の兆しが表れた後、何回かの浮沈を繰り返します。英国病と言われたイギリスがサッチャー政権で復活し、20世紀で繁栄が終わるかと思われたアメリカが、IT革命とGAFAMの台頭で再び復活しました。

 日本に勢いがあり、ハーバード大学のエズラボーゲル教授が「ジャパンアズナンバー1」を出版したのが1979年です。私は当時大学生で興奮して読んだものです。アーサー・ヘイリーの小説「自動車」ではなぜアメリカ車の品質が悪いのかということが詳細に書かれていました。アメリカの衰亡と日本の興隆はまちがいないというのが当時の雰囲気でした。

アメリカを復活させた要因の一つが1980年代のガバナンス改革です。米国はコーポレートガバナンスを強化、社外取締役を強化し、友人で占められ、株主目線でなく不信を放置していた取締役会を変えました。

ファンドも経営者に意識改革を迫りました。名経営者として知られるGEのジャック・ウェルチは「(株主に対して)説明責任を果たせない経営者にKKR(アメリカに本社をおくファンド)が規律をもたらした」と述べました。

もう一つはアメリカがIT革命のパラダイムシフトに大きく乗ったことです。アメリカが駄目になったといわれていた1975年にマイクロソフトが、1976年にアップルが創業されました。「衰亡の兆し」がある中に「復活の芽」が出ていたのです。製造業が中心で「インターネット」に懐疑的だった日本はこの大波に乗りおくれ衰退します。

日本でもガバナンス改革が進みつつあります。私もいくつかの会社の社外取締役を勤めています。海外の日本株再評価も日本の経営が株主視線重視に変わりつつあることを評価していると言えます。アメリカから30年以上遅れていますが(笑)

IT革命に変わり、AI革命が起こりつつあります。AI革命において専門家の開発競争である第一フェーズは米国と中国の争いで日本は蚊帳の外です。ただ、これから一般の人が使い、応用技術となる第二フェーズは日本の得意分野です。まだ間に合います。日本復活の鍵はAI革命第二フェーズにいかにのるかにあります。

〇日立から離れたKE成功の鍵「オーナー管理職」

 衆議院議員前議員会という衆議院の同窓会があります。毎年1-2回、講演がありそののち衆議院議長公邸で着席の昼食会があります。昨年、日立出身の先輩大臣経験者と隣り合わせになりました。ちょうど、その頃日立の株価が上昇し、日立の復活が注目されていたので「良かったですね」と言いました。

その時、KEという会社の話を聞きました。KEは半導体製造装置のKOKUSAI ELECTRIC(KE)。日立製作所グループの一部門だったのですが日立が「中核事業ではない」と見切ったため、2017年に買収した米投資会社KKRの下で改革しました。「日立という名前も消えてしまった。働いている人は複雑だろうな」というのが先輩大臣経験者の意見でした。「でも市場が評価しているから良いではないですか」との私の言葉にも複雑な表情でした。

KEの株価は昨年10月の上場以来2倍に急騰しました。日経新聞によると「日立時代は、資金を使うにも他部門との調整に追われて規模もスピードもなかった。今は研究開発や設備への投資が倍速で進む。日立を離れた17年まで遡ると、株価は30倍に化けた」とのことです。

私が注目したのは「攻めに駆り立てたのは、部長以上が株主になるしくみだ」というものでした。部長以上の約150人が会社の株を持ちオーナーの意識で働いた結果、保有する株の価値は一人平均2億円以上に膨らんだというのです。社員であり、会社のオーナーであるという意識が会社を成長させ、それが結果として、株価の上昇につながりました。管理職が「オーナー」である「オーナー管理職」が会社を発展させたのです。

〇創業者でなくとも「オーナー経営者」になる方法

 2021年3月、携帯電話会社ソフトバンクの社長に就任したばかりの宮川潤一氏は個人として会社から借り入れた資金でソフトバンク株200億円を市場から買い付けると発表し注目を集めました。

 社長が自社株を購入し、保有すること自体は一般的なことで珍しいことではありません。経営陣が中期的な企業価値向上をめざす意識付けとしてむしろ推奨されているといっていいでしょう。ただ、200億円という巨額の自社株を会社から融資を受けて購入する例は今までにないと思います。

 宮川氏はすでにソフトバンク株を約47万株保有していました。仮に3月末時点の株価で200億円規模の追加購入をすると、合わせて約1437万株(発行済み株式の0.3%)の保有になりました。

 グループ創業者の孫正義氏は親会社ソフトバンクグループの株は24.6%持っていますがソフトバンク携帯株は80万株しか持っていません。宮川氏の1437万株は役員の中で、ダントツとなります。宮川氏は「創業者でないオーナー経営者」になったともいえます。

 当然、株価下落のリスクがあります。10%下がったら20億、30%下がったら60億円です。相当な覚悟が必要だったと思います。。

ソフトバンクが宮川氏に資金を全額融資し、購入する株式を担保としました。経営トップとして業績と株価に責任を持つ姿勢を明確にするもので、宮川氏がソフトバンクグループの孫正義会長兼社長らと経営トップの責任について議論する中で、自社株買いのアイデアが出たといいます。

 宮川氏は「私個人として当社株式を保有することで、事業環境がいかに変化しようとも乗り越えていくという決意と、当社事業の成長を望む強い気持ちをステークホルダーの皆さまと共有したい」と述べました。

 3年が経ちました。2021年4月に約1400円であったソフトバンクの株価は、現在2000円を伺うところまで上昇しています。約35%の上昇です。200億円ですから約70億円の含み益ということになります。

 90年代以降、IT革命にのり起業し、ある程度成功した企業が後継者を考える時期に来ています。それらの企業の後継者に株主目線を持たせるためには、ソフトバンクの「創業者でないオーナー経営者」になる宮川方式を参考にしていただきたいと思います。

〇株式の大衆化で日本復活を

 NISAが導入されたこともあり、多くの人が株式投資に興味を持ち始めています。松下幸之助は前述の「株式の大衆化で新たな繁栄を」と題した提言でより具体的に「政府に望みたいことは、政府みずからが株式の大衆化なり株主尊重の意義を正しく認識、評価することである」「その上に立って、すべての国民に株式をもつことを奨励、要望し、それを実現するための具体的な奨励策、優遇策というものを大いに打ち出すことが大事だと思う」と述べます。

 松下幸之助は「たとえば株を持つために融資するとか、奨励金を出すとか、あるいは一定以下の少数株主の場合は税金をタダにするとか、きめ細かい施策」を講ずべきだと具体的に述べています。

 「オマハの賢人」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏は「株主への手紙」で「米国は投資家にとって素晴らしい国」と母国市場に絶大なる信頼を示しました。日本を「投資家にとって素晴らしい国」にできるよう、政治家は知恵と汗を出すべきだと思います。

裏金問題も大事でしょうが、国会はぜひとも「株式大衆化の優遇策」と「投資家にとって素晴らしい国にするには」を議論してもらいたいと思います。昭和の呪縛から解き放たれ日経平均が4万円を超えた今こそ、日本復活の最後のチャンスかもしれないのですから。

「もしトラ」が現実味、日本は?! 2024.02.19

謹啓 雨水の候 春一番が吹いた湘南です。
日経平均株価も1989年末の史上最高値3万8915円が視野に入り始めて春を感じさせますが、不安の雲も広がり始めています。「もしトラ」(もしもトランプ氏が当選したら)です。
 国会の議論は「裏金問題」一色ですが、11月の米国大統領選挙は世界に大きな影響を与えます。内向きだけでなく、外向き、世界の情勢も日本にとって大事なので、「もしトラ」から「ほぼトラ」(ほぼ、トランプが勝つのでは?)について述べます。本当は国会予算委員会でこの議論もしてほしいと、元衆議院予算委員会理事としては思うのですが(笑)

 1月のメルマガでも述べましたが英国ファイナンシャルタイムスは「トランプ再選は結局ない」と予想していました。しかし、2月8日、バイデン大統領の「記憶力に陰り」とアメリカ検察が報告書を出し、81歳のバイデン大統領に不安を提供したことで状況は変わったと思います。
 報告書によると、バイデン氏は副大統領時代の機密文書持ち出しについて、検察の聴取に応じた際、「私が副大統領を終えたのはいつだったか」などと発言。長男のボー氏がいつ死去したかも思い出せなかったとされています。
 最近の映像を見るとバイデン氏はあきらかに弱っており、トランプ氏の元気さが際立っています。刑事訴追しないとの結論を出した米国検察の報告書は「仮に裁判にかけられても陪審員には記憶力の悪い善意の老人と見なされるだろう」とも記しました。「壊滅的な政治的逆風になりかねない」(NBCテレビ)と波紋が広がっています。
「もしトラ」悲観論がSNSでは多いです。しかし私はヨーロッパはともかく、日本はそんなにおびえる必要はないという意見です。

〇「もしトラ」はヨーロッパにとって大変

 スイスのダボスで1月15日から行われた世界経済フォーラム(WEF)年次総会、通称ダボス会議。今年のテーマは「信頼の再構築へ」というもので300人の政治関係者と1600人のビジネスリーダーが集まりました。
 一時のグローバル化の推進役としての会議の存在意義は薄まりました。しかし、会場の廊下やホテルで交わされる「オフレコ」の会話の価値は壇上でのディスカッションよりはるかな価値があります。 
 企業経営者の場合、渡航費・宿泊費で数百万円、参加の前提条件となる年会費も約930万円かかりますが、私は若手経営者に是非参加すべきと勧めています。世界的な人脈を創るために、様々な会合に出席することは「人生を変えるような出会い」があるからです。

 欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、トランプ氏が再選されれば欧州にとって明らかな「脅威」になる、と発言しました。
 米国の国際政治学者イアン・ブレマー氏は、「もしトランプ氏が大統領選で勝利すれば、特に欧州は壊滅的な影響を受ける」と指摘しました。「秩序をもたらすと主張しながら無秩序を呼ぶ人物」 「信頼されなくてはいけないポジションにいる信頼できない人」と手厳しく述べました。
 たしかにそうで、トランプ氏の復帰はプーチン大統領を喜ばせるでしょう。2月10日、トランプ氏は「十分な軍事費を負担しないNATO=北大西洋条約機構の加盟国は防衛しない」と発言。ヨーロッパの加盟国の首脳らからは「ロシアを利するだけだ」などといった批判が相次ぎました。
 ただ、トランプ氏の公約では「ロシアとウクライナの戦争を直ちに停止すべきだ」としています。これは日本にとって少なくとも短期的にはプラスです。
 日本の報道と違い、ロシアの経済状況は悪くありません。世界銀行が公表したGDP世界ランキングで、ロシアが僅差でドイツを追い抜ぬきました。ロシア経済は西側の制裁攻勢に耐えた。日本はドイツに抜かれ4位になり、ロシアはドイツを上回り、米中に続き世界第三位となった。これが現実です。つまり、今の世界情勢は世界第一位のGDP大国アメリカ対「二位の中国、三位のロシア連合軍」の対立なのです。

 イーロン・マスクが「プーチン氏敗北はあり得ない」としてウクライナ支援法に反対し、「こうした支出はウクライナの助けにならず、戦争の長期化はウクライナのためにならない」というのも理解できます。
 ただ、ロシアはウクライナの次はポーランドを攻めるともいわれ、NATOは軍備増強をせざるを得なくなります。、NATO加盟国の2024年防衛予算の総額が過去最高の3800億ドル(約57兆円)に上った。2300億ドル未満だった14年から大幅に増加していますし、より増加するでしょう。
 アジアはどうか。昨年、ワシントンを訪れたポーランドのモラウィエツキ首相は「ウクライナが打ち負かされれば、中国が台湾に攻撃するかもしれない」と述べましたが、その可能性は高くないと思います。理由は簡単です。中国はまだアメリカと戦ったら負けるからです。「孫子の兵法の国」中国は負ける戦いには手を出しません。

 〇「もしトラ」は「繁栄と享楽の20年代」に似てくる

 1910年代の第一次大戦、アメリカは孤立主義を捨てました。「民主主義を守るために世界を安全にするのがアメリカの責務である」という理想を掲げたウィルソン大統領(民主党)は吉田茂も随員だったパリ講和会議で国際連盟創設など世界平和に尽力しましたが、脳梗塞に倒れ、挫折します。ニューフリーダムを掲げる進歩主義者で、共和党の「棍棒外交・ドル外交」を否定し、「宣教師外交」を唱えました。ただ、文字通り、牧師のような性格で政治的根回しが苦手だったようです。
 1921年、その後を継いだのは29代ウォーレン・ハーディング大統領(共和党)です。ハーディングは進歩主義から離脱「アメリカが一番」のスローガンを掲げますが23年、任期途中でなくなります。

 その後を継いだのが、カルビン・クーリッジ30代大統領で「アメリカのビジネス(仕事)はビジネスである」という有名な言葉を残します。ビジネスには「仕事」と「ビジネス」の二つの意味があります。「アメリカ人はビジネスをやったらいいんだ」という資本主義の協議そのものが大統領の信条となります。
 クーリッジ大統領は「必要以上の税を集めるのは合法的強盗である」とし、減税も行いました。一方、移民にも厳しく、当時移民としてカリフォルニア、ハワイに多かった日本人に対し「排日移民法」ともいうべき移民政策をとりました。トランプがとろうとしている政策に似ています。
 その結果どうなったか。アメリカ経済はアメリカ重視の政策の結果、?栄します。急速に自動車が大衆化し、人口1億人の米国で保有台数数千万台に達します。女性も化粧をするようになり、上流階級のものだった小型のハンドバッグが流行します。軽薄だったとの批判もありますが、1920年代は「明るい時代」でした。
 2016年のヒラリー氏との大統領選でトランプ氏が勝利した時を思い出してください。選挙の前、トランプ優勢で米国の株式市場も悲観的になりましたが、実際にトランプ大統領が誕生してしまうと、むしろ前向きに新しい政治を評価し、「トランプラリー」と呼ばれる株高となりました。2017年もダウ工業株30種平均など主要3指数は年間で2ケタの上昇となりました。また、業種別では、IT上昇率が36.9%と最も大きく、GAFAMが大幅高となりました。
 「もしトラ」ををマーケットがリスクとしてとらえるのは、変な言い方をすればトランプ氏が大統領に就任するまでの期間でないかと思います。トランプの言う、アメリカ第一主義を唱え実行することは、ヨーロッパにはともかく本音を言えば米国にとっては心地良いことなのです。

〇「もしトラ」の時、日本は

 日本経済はヨーロッパよりも圧倒的にアメリカに影響を受けます。「もしトラ」は日本にとって「恐れるに足らず」と思います。
トランプ氏の支持基盤の一つが斜陽産業が集中する地域「ラストベルト(さびついた工業地帯)」です。日本製鉄が買収しようとしているUSスチールが本社を置くピッツバーグは「ラストベルト(さびついた工業地帯)」そのものですから影響は受けるでしょう。逆に、トランプ氏はEV推進の見直し政策をとります。EV化に後れをとったトヨタにとってはチャンスの4年になるかもしれません。
 日本の株高は、中国に回っていた資金が日本に回ってきていることが大きな要素です。「もしトラ」でトランプ氏は中国にからの全輸入品に60%以上の関税を示唆しています。米中緊張はより続くと予想され、日本に資金が引き続きまわってきます。
 2016年12月6日、トランプ氏が大統領選に勝利し、1月の正式就任する前にトランプタワーで孫正義氏が日本人として初めて会談しました。これが12月6日であることは実は隠れたポイントです。12月7日だったら真珠湾攻撃の日ですからね(笑)「もしトラ」の場合、今回は誰が最初にトランプ氏に会いにゆくのでしょうか?
「もしトラ」と心配するのではなく、「もしトラ」をどう生かすかを考えて経営、行動してゆくのが良いと思います。謹白

GDP成長率 日本がG7トップの指標・・最大でなく「最良の国」を 2024.1.15

小寒の候 年明けから悲しいニュースが続きました。小寒の入り、鎌倉は春のような陽気でした。鎌倉、円覚寺には初梅が咲いていました。
「本年もいずれ良きことある予感 小寒の日に梅の咲ければ」

〇GDPの呪縛をはなれ「最大」でなく「最良の国」を
 昨年末には日本のGDPがドイツに抜かれて4位になるとか、一人当たりGDPがイタリアに抜かれてG7最下位になるというニュースが流れました。日本のGDPは世界第2位でアメリカに次ぐのが常識だった昭和世代にはショックなニュースでした。日本の一人当たり名目GDPは3万4064ドルとなりました。イタリアに抜かれて主要7カ国(G7)で最下位です。ラテン気質で人生を楽しむことが最高と思っているイタリア人より低いというのも割り切れないものがあります。

1人当たりGDPが香港や台湾にも抜かれているのは、銀座へ行くとよくわかります。銀座和光でグランドセイコー「桜隠し」を買っていたのは香港や台湾の人。日本人はその通訳です。私は京都へよく行くのですが、嵐山では香港、台湾の富裕な観光客を乗せた人力車を日本の若者が引いています。おそらく、いずれ韓国にも抜かれるでしょう。

ただ、あまりGDPに囚われるのも考え物です。そもそもGDPの前身であるGNP(国民総生産)が最初に考案されたのは、1930年代の大恐慌と第二次世界大戦でした。フーバーが大統領だった1932年、米議会上院は世界恐慌の米国経済への影響を理解するため、国民所得を推計することを商務省に要請。商務省は、ソビエト連邦の成立でロシアを脱出したベラルーシ出身の若手経済学者、サイモン・クズネッツさがGNPを開発しました。つまり、「どれだけ悪いか」を知るための指標として開発されたものです。

1971年にノーベル経済学賞を受賞したクズネッツですが、生みの親でありながらGNPを完全なものと考えていませんでした。「国家の福祉は、(GNP開発のとき定義した)国民所得というものから推計することはほとんどできない」と述べています。

明治維新以降、日本は帝国主義の時代の中、軍事力拡大で「最強の国」を目指しました。敗戦後、日本は経済成長を追い求めGDP「最大の国」を目指しました。次はGDPの呪縛を放れ「最強」でも「最大」でもない「最良の国」を目指すべきです。

〇生産年齢人口一人当たり成長率は日本がトップ
また、世界の学者は「一人当たりGDP」は「ますます誤った印象を与える指標」と主張します。経済学者のヘスース・フェルナンデス=ビジャベルデ(ペンシルベニア大学)、グスタボ・ベンチュラ(アリゾナ州立大学)、ウェン・ヤオ(中国・清華大学)の各氏です。は彼らが1人当たりGDPの代わりに注目するよう提案しているのが生産年齢人口1人当たりGDPです。

1月2日のウォールストリートジャーナル。「日本の経済成長率はG7トップ、この指標なら・・総人口の代わりに生産年齢に注目すると、日本は先進7カ国の下位から1位に浮上する」という記事が掲載されました。

1990年から2019年の間、日本のGDPの年間成長率は1%未満で、米国の約2.5%を大きく下回りました。1人当たりGDPの成長率では日本が0.8%と停滞したのに対し、米国は1.5%でした
しかし生産年齢人口1人当たりGDPでは両国の差はほとんどなくなり、成長率は日本が1.44%、米国は1.56%。リーマンショックの2008年から新型コロナウイルス禍直前の2019年までの期間では、生産年齢人口1人当たりGDPの成長率はG7で日本が最も高かったというのです。

つまり、日本の高齢化率は世界でも有数な急速で働く人が少なくなり、高齢化で働かない人の比率が増えている。家族で言えば、給料をもらってくる人が少なくなり、年金で暮らしている人が多くなる。大雑把に給料÷家族数を一人当たりGDPと考えれば、一人当たりGDPが少なくなるのは当たり前。それでも、なんとか食い止めているのは、給料を稼ぐ「生産年齢人口」=現役世代が成長率を上げて頑張っているということになるのです。

 日本は今後、高齢化が進む世界の他の国にとってモデルになりえます。日本の人口減少が始まったのは2010年。しかし、15歳から64歳までの生産年齢人口は30年前の1990年代前半から減り始めています。
ウォールストリートジャーナルは「生産年齢人口で見たGDPから分かるのは・・日本は素人目にも明らかにうまくやっていることだ。瀕死とされた経済成長が30年間続いても、日本はまだ明らかに富裕国で、生活水準は高い」と日本をほめているのです。

〇「最良の国」を目指すには・・ライフスタイルを変えよ
 私は38歳から47歳まで、高輪の衆議院議員宿舎にいました。小泉元総理と同じ宿舎でした。48歳から57歳まで、ソフトバンクまで車で10分の港区のタワーマンション住まいでした。充実した日々でありましたが、多忙でした。世界と日本がグローバリズムの大波に巻き込まれる中で、日本および企業がどう進むかを考え、実行する日々でした。政治でも企業でも「経済成長の復活」「売上高最高」をめざしました。GDP「最大の国」を目指していたのです。

 ソフトバンクを退任したのを機に、松下政経塾で若き日を過ごした湘南に移住して、7年目になります。ライフスタイルを変えるために湘南移住を決意した時に参考にしたのが、「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」などの著者で、ノーベル経済学者のジョセフ・スティグリッツの論考です。スティグリッツは「経済成長率を超える幸福度指標の提案」で経済指標のGNPを作り直そうとしています。
「今後、どうやって生きていくかを考え、ライフスタイルを整えていく必要がある。・・暮らし方を変えたほうが良い・・生活水準の向上を考えるとき、より重要なことはモノではなく、『どう生きるかだ』」スティグリッツ氏は生活水準を上げるために、以下のような具体的な事例を5つ挙げています。
1,住みよい都市に住む 2,車を持つ必要はない 3,食事が重要 4,自然を楽しめる環境、公園 5,夜でも散歩できる環境

私がこれを参考にどのようにライフスタイルを変えたかを以下に述べたいと思います。
1.住みやすい都市に生きる事である・・移住した辻堂は「本当に住みやすい街」ランキング1位なのだそうです。移住した頃は茅ケ崎や鎌倉に比べ地味で、1位ではなかったのですが(笑)
2.公共交通機関があれば、車を持つ必要はない・・駅まで3分の駅近を住まいとし、運転免許証は返上しました。環境にも貢献できます。東京まで約50分の駅です。
3.大事なのは適切な食事だ・・相模湾でとれた新鮮な魚が家から2分の魚屋さんで買えます。野菜も安く、食費は港区の3割は安くなります。
4.自然を楽しめる環境、公園・・辻堂海浜公園などたくさんあります。なんといっても海が近く、海岸を散歩すると左に江ノ島、右に富士山が見えます
5.夜でも安心して散歩ができること・・夜でも、もちろん安全です。家での風呂代わりに夜行く温泉付きのスポーツジムまで徒歩4分です。しかも、会費は港区の半分です。
家の隣は湘南テラスモールがあり、毎日夕食前に30分散歩してます。冷暖房も効いており、絶好の散歩ルートです。

 私は湘南移住をしたことで「最良の国、日本」をつくるヒントを得たような気がしています。コロナによって、オンライン会議、在宅ワークがニューノーマルになりました。現役世代でも、移住でライフスタイルを変えることはできます。都心部でなく、ちょっと離れればウォールストリートジャーナルのいうように「瀕死とされた経済成長が30年間続いても、日本はまだ明らかに富裕国で、生活水準は高い」ことが実感できるのです。
地方の首長は「住みやすい都市」を創ることに全力を注ぐべきです。それが、日本が「最良の国」になることにつながります。

私のように老年になった者は、生産年齢世代=現役世代が頑張っていてくれていることに感謝し、2024年もこころ豊かに過ごしてゆきたいと思っています。そして、現役世代は、生産年齢人口の成長率はG7でトップであると自信をもって仕事をしていただきたいと思います。そして是非「最強」でも「最大」でもない「最良の国」日本を創ってください。

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